ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 ミンツ(Vn)シノーポリ指揮フィルハーモニア管池谷裕二と糸井重里の「海馬」を読む。
一時期、脳関係の本が流行っていたようだ。脳死は死か、という議論が盛んだったこととか、養老孟司の本がたくさん出始めたのがきっかけだったのかも知れない。
海馬は、脳の中心部にある小指ほどの大きさの部位で、記憶をつかさどる機能を持つとのこと。
この本を読んで初めて知ったことがいくつかある。
それは、脳は疲れないということだ。死ぬまで元気に働き続ける。脳が疲れたという感覚は実は目の疲れであり、目を休めればまた元気になる。
それから、睡眠は1日に最低6時間はとったほうがいいという説。
最近、短時間睡眠関連の本が多く出されているので、ちょっと気にかけていた。3時間の睡眠でこと足りるのであれば、有意義な時間が増えるわけで、これはなかなか魅力的な冒険だ。
でも、それは間違いだという。
脳は死ぬまで休まないけれど、睡眠中には、起きていたときの出来事を編集する作業にいそしんでいるのだ。夜にやった仕事を翌朝に確認するといろいろ修正点を発見するのは、この編集処理によるものらしい。
徹夜を何日か続けると幻覚がみえてくるのは、本来睡眠中に実施されるはずの編集作業が起きているころに処理されてしまうから、ということだ。
というようなウンチクがいろいろ飛び出して、面白い本なのだ。
脳の機能の全貌はいまだに明らかにされていないらしいが、よくわからないところがまたいいのだと思う。
ミンツとシノーポリのベートーヴェンをひさしぶりに聴く。
私の海馬によれば、綺麗だけどオケが気取っている、という記憶がある。
今回改めて聴いてみると、その印象はおおむね違っていないけど、気取っているように聴こえるのは丁寧さからきているのではないかと思った。
弦も、木管も、ティンパニも、微にいり細にいり、計算しつくしたようなテンポと強さを保っている。
不安定な平均台の上で歩くような慎重さ。
そういったところ、とても神経質な感じを受けるが、現代的といわれればそうかもしれない。
シノーポリの残したベートーヴェンの録音は、他にアルゲリッチとのピアノ協奏曲もあるが、かなり似通っている。オケをスリムに整えて、とてもスマートだ。泥臭さとは無縁のこのスマートさが、当時は鼻についたのだろう。
スケールの大きさはさほど感じないが、これほどデリケートな演奏も珍しい。
ミンツのヴァイオリンの、やや線の細いところがオケによく合っている。テンポをたっぷりとって存分に鳴らしている。透明感が快感だ。
クライスラーのカデンツァも、落ち着いた佇まいを感じるいい演奏である。
1986年9月、ロンドンでの録音。
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