シューマン ピアノ独奏曲全集 デムス藤原和博の「人生の教科書」を読む。
サラリーマンにとってだけではなく、どんなヒトにとっても人間関係は悩みのタネだ。
そういった、人間関係の問題について解き明かそうと試みた本である。
著者は民間人でありながら、以前に杉並区の和田中学校の校長を勤めた人物で、現職中はいろいろなアイデアを出して教育現場を活性化させたという。
印象に残るのは、相手が言いたいことを質問しなさい、という項である。
けっしてご機嫌伺いではなく、話をきちんと聴いて意見を掬い取ること、これが大事なのだとのこと。
相手の意見をきっちりと聞いて、自分もじっくり発言することでコミュニケーションが深くなるし、議論も噛みあってゆくというわけだ。
デムスを昔、生で聴いたことがある。モーツァルトの23番だった。全体のまとめかたは安定しているのだけど、アレグロの曲になると、たびたび音をすっ飛ばして弾くので少々興ざめしたことがあった。
当時はすでにビックネームであったが、まだ50歳かそこらだったので、衰えというよりはもともとの性質なのだと思った。もしかしたら、たまたま不調だったのかも知れないが。
ただ、そういったことは、このスタジオ録音のシューマンを聴いても感じられる。このシューマンの曲集は、総じてじっくりと腰の落ち着いて重厚である反面、ときおり速いパッセージでもたつくところがあって、テクニック的にちょっと注文をつけたくなる演奏がいくつかある。
テクニックよりも味で勝負するタイプのソリストなのだろう。でも、テンポを揺らしたりとか、派手な解釈を披露するわけではないので、地味な印象を受ける。だから、ちょっとわかりづらいピアニストだ。
言っちゃ悪いけど、「ウイーンの三羽鳥」のほかに特に言うことはないという感じ。
とはいえ、この曲集の「トッカータ」は、技巧的にもじつに冴えている。
華やかで目が眩むばかりのホロヴィッツの名演を想起させる演奏だ。
この曲は、あたかもシューマンが躁状態のときに書かれたのじゃないかと思うくらいに、妙に浮き立った曲であって、この作曲家独特の、トリッキーなメロディーが炸裂している。
デムスは、それに対して真正面からぶつかっていて臆するところがない。こういった正統派のタイプが好調のときは、こういう演奏もできるのだぞといった、面目躍如のピアノ。
全集中の名演奏のひとつ。
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