グレン・グールド(Pf)大前研一の「サラリーマン再起動マニュアル」を読む。
著者が、ビジネスマンの必要なスキルとして常日頃から言っているのは、ビジネスのコミュニケーションがとれる英会話、財務、ITである。この本では、英会話と投資、そしてITについて熱く語っている。ITについての、ことにWeb2.0とか、グーグルがどういった戦略で世界を制しようとしてその対抗馬はなにか、といったあたりは、あまり自分の仕事と関係なかったし、わりとマニアックなので関係者以外は読み飛ばしていいだろうと思う。とはいえ、大前節が炸裂しているので、勢いはいい。
そんな中で、この本はラスト近くが面白い。ちょっと肩の力が抜けたような、あるいは勢い余ったかのような語り口を読むことができる。近頃の若者の独身率や出産率の低さを嘆いた「グチ」である。
独身の男女の結婚しないのは、「適当な相手にめぐり合わない」という理由が40%を超えているらしい。それに対する大前の意見がいい。
「私にいわせれば、そういう理由だったら永遠に結婚できない。結婚は錯覚に基づくものなので、その異性が今適当な相手かどうかなんて冷静な判断をしていたら結婚に踏み切るのは不可能に近い」。
こうなったら、経営コンサルとか外交だけではなく、人生も大前にまかせよう。
グールドは結局、ベートーヴェンの後期三大ソナタをモノラルで1回しか録音を残さなかった。もしも、70年代の成熟が録音のクオリティで録音されたならばどんなに素晴らしいかと夢想しないではいられないものの、この50年代の録音もとてもいい。例えようもなくいい。
この演奏、ところどころ大きくテンポを変化させているのにも関わらず、全体を通して、真っ向ストレート勝負のような後味を感じるのだ。
この後味のよさはどこからくるものなのか。思いつくままに言ってしまうと、ピアノの音そのものの色気、そして軽やかさじゃないかと思う。大作曲家の晩年の作品だからといって、その重厚な人生をなぞるようにしかつめらしく弾くのではない。酸いも甘いもわからない少年が作った音楽を弾くかのように、若くて軽い。そういったスタイルが、かえってベートーヴェンの音楽の深さを醸し出しているように感じる。
軽いけれどもじわじわと深いのだ。
1956年6月26,27日、ニューヨーク、30番街コロンビア・スタジオでの録音。
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