ベートーヴェン「ディアベルリ変奏曲」 ヴァレリー・アファナシエフ(Pf)青野春秋の「俺はまだ本気出してないだけ 2」を読む。
主人公は漫画家を目指す42歳の子持ちフリーター。今回は、実家の父親と喧嘩をして家出をする話や、編集者への一目ぼれの話、父親が焼き鳥屋を経営していた話などが、笑いあり涙ちょびっとありで描かれている。
主人公のなまぬるい生き方がなんともいえずいい味を出している。
周辺の人物もお人よしばかり。
これはひとつのユートピアかもしれない。
「ディアベルリ」は長いあいだ高いハードルであり続けた。
冒頭の親しみやすいワルツを聴いて油断していると、いつ終わるとも知れない変奏曲が延々と続く。
ことに、22変奏の「ドン・ジョヴァンニ」のパロディーが炸裂したあとが長い。それまでは緩急の変化があるのでわりと聴きやすいが、23変奏以降は、この作曲家独特の晩年の境地がひたすら続く。
それぞれの曲はさほど難解なものではないし、1分弱から5分程度の小曲だから、忍耐を強いられるほどのものではないはずなのだが、通して聴くと、それらはひとつの大曲として圧倒的な威圧感をもって聴き手に迫ってくる。
風味は、後期3大ソナタのそれぞれアダージョ楽章なのだが、こちらのほうが余程とっつきづらいのは、変奏曲の形式をとっているからか。それとも全体の長さによるものか。
数回聴いてみて、まったく面白くなかったので、これはホントに名曲なのか、実はたいした作品ではないのではなかろうかと疑いを感じ始めてしまった。
10回を超えるあたりから、ようやく全貌がかすかに見え始める。いつ果てるかわからない遅い曲をじっと聴き続けると、ようやく終曲にいたってじわじわと青空が見え始める。気の遠くなるような山登りの果てに、とうとう頂上に着いた感覚。
いままでいろいろあったけど、ご苦労さん、と。
この長大な変奏曲、アファナシエフの演奏だと60分を超えるものになる。彼のピアノは、速いテンポだったら弾き飛ばしてしまいそうな部分を、あぶりだすような執拗さがあって、非常に丁寧だけれども現代風に神経質な演奏だといえる。
曲、演奏ともに手ごわすぎた。
1998年11月、スイスでの録音
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