プレトニョフのピアノで、ベートーヴェンの「皇帝」協奏曲を聴く。
冒頭は変化球三昧。カデンツァのテンポの大きな揺れにびっくりさせられ、オケの伴奏もそれに合わせて大きく変化する。ここは何度聴いても新鮮で、かつ違和感がなくなっていく。面白い演奏である。
ところが、主部に入ると、ストレート勝負に切り替わる。いくぶん速めのテンポで、ぐいぐいと進んでゆく。細かいところでスライダーやカットボールを織り交ぜているが、基本はオーソドックス。ラストのカデンツァではまた大きな変化を見せるが。
プレトニョフのピアノは華麗で骨太、滅法勢いがいい。ライヴなのに破綻は微塵もない。うまい。
2楽章はオケが聴かせる。この曲はベートーヴェンが書いた曲のなかで最も美しいもののひとつだと思うが、これをじつにしっとりと演奏している。弦楽器の肌理のこまかな響きがなんと心地よいことか。
終楽章は一気呵成の勢い。細かなニュアンスづけをしつつ、吠えるところは吠える! プレトニョフのテクニック、凄い切れ味。
最後は怒涛のように締めくくる。高揚しないではいられない。
録音は残響を多めにとっている。観衆の息遣いが聞こえるようなライヴの雰囲気が濃厚。
ミハイル・プレトニョフ(ピアノ)
クリスティアン・ガンシュ指揮
ロシア・ナショナル管弦楽団
2006年9月3日、ボン、ベートーヴェンフェストでの録音。
愛する人がまた遠くへ行ってしまった。
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