ヘンデル 合奏協奏曲 マリナー指揮アカデミー室内管中沢新一・波多野一郎の「イカの哲学」を読む。
第二次世界大戦で特攻隊であった波多野が戦後に書いた哲学書を、中沢が読み解いてゆく。
波多野は、アメリカ留学中に漁港でイカの仕分けのアルバイトをしていた経験から、「イカの哲学」を思いついたという。
人間によって捕らえられたイカの実存について、いわゆる哲学書とは思えないとても簡易な文章で綴っている。
普通に海で泳いでいて生活しているところに、いきなり網を仕掛けられて自由を奪われたイカの立場というものはどうなのか。
生活のためにイカの自由を奪う人間はどうなのか。
中沢の解説は、簡単ではないけれども、この愛らしくも深い哲学書に対する、愛情と敬意に満ちていて読み応えがある。
ヘンデルの合奏協奏曲は、形式としてはバッハのブランデンブルク協奏曲に酷似している。
管弦楽の華やかさとメロディーのとっつきやすさで、聴きやすいのはあきらかにバッハのほうであり、一方のヘンデルは、いかにもバロックといった、BGM的なものとして聞き流されるような類のものじゃないかと思った。
そういう印象を、この曲集を4,5回聴くまで感じていた。
ロマン派のようなアクの強い音楽ではないために、何度聴いてももたれることがない。よって、この一ヶ月はIpodに入れて通勤の音楽として毎日聴いていたのであるが、半月くらいして、印象が変わった。
突然、様々なメロディーやリズム感の妙味が、じわじわと感じられるようになった。
1回はもちろん、数回聴いても印象に残らなかった音楽が、十回近く聴くに及んで、ようやく身になじんできた。
噛めば噛むほど味が出るというのは、こういう音楽について言うのだろうと思う。
謙虚で大らか。自然で知的。
マリナーとアカデミーの演奏は磐石。各楽器が素晴らしく生き生きとしている。特に、要所で輝く弦の艶が官能的で、ハッとさせられる。
1984年4月の録音
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