シューマン ピアノ五重奏曲、他 リヒテル(Pf) ボロディン四重奏団外山滋比古の「思考の整理学」を読む。
書店に行くと、この本がまた最近になってまた流行っているらしく、山積みにしてある。
私も以前に読んだ記憶があったが、内容を忘れていたので改めて読んでみる。日常のちょっとしたことをもとにして進める手法といい、冷静沈着な分析といい、一編数ページからなる形式といい、小林秀雄の「考えるヒント」によく似ている。こちらのほうが実務的だ。
そんなことを思っていると、「考えるヒント」を読みたくなった。
リヒテルのピアノはいつも通り繊細で豪胆。ボロディン四重奏団の演奏も負けずに多彩な音を繰り出す。
この五重奏曲は、シューマンの詩情あふれた夜の曲だが、この両者は真正面から骨太にシューマンに相対する。
1楽章のメランコリックな躍動感ある旋律は、シューマンでなければ書けないであろう独特なもので、他のロマン派作曲家とは一線を画する。それに続く2楽章の不安定で薄暗い憂愁、3楽章のとっぴな快活さ、4楽章のとりとめのない奔放さは、非常に魅力的であって、健全な精神の人間が書くものとはちょっと違う、狂気の味わいがあって、そのあたりは伝記の伝える通りである。
リヒテルのシューマンはいつもすばらしい。ふうわりとした音には芯があって、それががっちりと楽想を支えているところ、まったくケレン味のないもので、こういったスタイルがかえってシューマンの狂気をじわじわとあぶりだしてゆく。
ボロディン四重奏団の鮮やかな手際のよさとリヒテルとの息はぴったりであり、小気味いいほどだ。
1994年6月、ナントでの録音
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