シドニー・ルメット監督の「オリエント急行殺人事件」を観る。
先日に、野村萬斎がポアロを演じたテレビがなかなか面白かったので、改めてアメリカ映画のほうを観たくなった。観るのは30年ぶりくらいかな。
冒頭から雰囲気がいい。どっしりとした映像に華麗な音楽。あたかも本編の完成度の高さを約束してくれるよう。
ポアロ役のアルバート・フィニーは、当時は30代であったが、見事に老け役を演じている。ラストの長大なセリフは、わずか数カットできっちり仕上げている。
出演者は豪華すぎるし、誰もが輝いている。強いて言えば、車掌役のジャン・ピエール・カッセルの抑えた演技がとてもいい。いかにも実直な鉄道員といった風情。秘密を暴かれて涙を流すシーンでは、思わずもらい泣きしてしもうた。
あと伯爵夫人をやったジャクリーン・ビセット。この頃が彼女の最盛期だっただろうか。美しすぎる。
野村萬斎の作品はクリスティ原作というよりも、この映画を下敷きにしたことは明らかだ。それほど、この演出は端的にして雄弁。
やはりシドニー・ルメットは、コッポラと並ぶ1970年代アメリカ映画のエースであろう。
カニーノのピアノでバッハの「ゴルトベルク変奏曲」を聴く。
このピアニストをきちんと聴くのは初めて。伴奏をするピアニストとしては有名らしいから、どこかで耳にしているかもしれないが、彼を特段意識したことはない。
最初のアリアで魅せられた。装飾音の扱いが、とてもセンスがいいから。少し多めにつけているが、まったくうるさくない。ときおりみせるスタッカートのアクセントも味がいい。
音はやや硬質であり、すっとよく伸びる。現代グランド・ピアノの凛々しい音色だ。
変奏曲8における装飾音、このようなつけかたは初めて聴いた。さりげなくも強い印象が残る。
変奏曲25のアダージョは、8分以上かけている。テンポはそう遅くないので、反復をしているのだろう。ゆっくりとしたこの曲に比重を置いている。他の変奏曲の歯切れがいいから、バランスがとれている。
変奏曲28も好きだ。キレのよさを保ちつつ、とても柔らかなタッチでもって、羽毛のように軽やかな音を紡ぎ出す。
変奏曲30は淡々として潔い。
全曲を通して76分強。聴き終わるとほどよい疲れが残る。
この録音はライヴであるし、1日で録っているから、いいところをツギハギしたものではなさそうだ。それにしては瑕疵がない。完璧に弾ききっている。一発録りであったなら、カニーノはすごいテクニックの持ち主である。
1993年1月17日、ルガーノ、スイス・イタリア語放送オーディトリアムでの録音。
おでんとツイッターやってます!八甲田。
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