マルクス・アウレーリウスの「自省録」(神谷美恵子訳)から。
「つねに信条通り正しく行動するのに成功しなくとも、胸を悪くしたり落胆したり厭になったりするな。失敗したらまたそれにもどって行け。そして大体において自分の行動が人間としてふさわしいものならそれで満足し、君が再びもどって行ってやろうとする事柄を愛せよ」(第5巻-9)。
ヘレヴェッヘ指揮コレギウム・ヴォカーレの演奏で、バッハの「ロ短調ミサ」を聴く。
ヘレヴェッヘはこの曲を今のところ3度(!)録音しており、今日聴いたのは2度目のもの。
キリエの冒頭の合唱は美しい。なんて精密で透明感のある声だろう。あまりの良さに腰が抜けそうになった。ロケーションはどこか不明だが、残響が豊かで自然。歌手もそれぞれ素晴らしい。ショルのカウンター・テナー、全盛期のプレガルディエンを心ゆくまで堪能できる。ソプラノのふたりも秀逸。
オーケストラは主に古楽器を使用していると思われる。ヴァイオリンのソロや、ホルン、ファゴットなどは明らかにモダン楽器とは異なる響きを出している。トランペットとティンパニはモダンに近いが、ふたつが溶け合うところ、じつにおいしい。
「グローリア(主なる神)」のフルート・ソロは流麗ではないが音が濃くて味わいがある。「グローリア(そはひとり汝のみ聖)」のホルンとファゴットは面白い。音を出すことがいかにも苦しげなのに、いや苦しげだからいいのかもしれないが、ブカブカとユーモラスな音を醸し出しており愉快。
ソプラノのふたりは清廉でいい。それぞれわずかにヴィブラートをかけている。かすかにエロティックを感じさせるところが絶妙なスパイス。
ショルは抜群の安定感があり、文句のつけようがない。「グローリア(なんじ父の右に坐したもう者よ)」はくもり空の下の穏やかな海のよう。「アニュス・デイ」はクッキリと映る三日月のように鮮烈。
コーイは重すぎず軽すぎず、ちょうどいい按配の声であり、キリッと誠実に歌いきっている。
「クレド(しかして信ず、精霊を)」はテノール最大の見せ場。オーボエ、ファゴットの軽やかなメロディーに乗って朗々と歌われる。プレガルディエンの声には張りと艶があり、いくぶんの抑揚がつけられている。いささかロマンティックであるが立派な歌である。
全体を通して、これはとても完成度の高い演奏。
ヨハネッテ・ゾメル(ソプラノ)
ヴェロニク・ジャン(ソプラノ)
アンドレアス・ショル(カウンター・テノール)
クリストフ・プレガルディエン(テノール)
ペーター・コーイ(バス)
ハンノ・ミュラー=ブラッハマン(バス)
1996年7月の録音。
朝。
重版できました。
「ぶらあぼ」4月号に掲載されました!PR