レナード・バーンスタイン指揮 ニューヨーク・フィル松下幸之助の「物の見方 考え方」を読む。
松下幸之助の著作を読むのは初めて。戦後の経済復興を支えた立役者でありつつ、人徳者としても名高いゆえに、なんだか恐れ多いし、高みから説教をされそうで、いまひとつ食指が動かなかったのだ。
読んでみると、いちいちあたりまえのことばかり言っているようでありながら、心にじんわり重くのしかかってくる。それは、文章が簡潔であることもあるし、著者が感じていること思っていることを、脚色なしに正直に書かれていることが、感覚的にわかるからだろうと思う。
著者の会社に対する思いを引用する。
「それにしてもまず必要なのは衣食を足らすことである。一つの会社で衣食住全部を製造することはできない。もしそれが住に関する仕事なら、住の中の一部分のものを満たしていく。食に関するものなら、食の一部を、というふうに皆を衣食足らし、その上で真人間にする。これがわれわれの仕事の目的である。会社とは聖人の製造所だ。」
真人間とか聖人とか、ビジネス書にはあまり見かけない言葉である。でも不思議に嫌味がない。大げさに感じない。むしろ共感する。彼が実際に達成しているからという事実の重みなのだろう。オビばかりが刺激的な心理学者やIT社長の本とは一味違う。
ハイドンのシンフォニーを、これまであまり聴いてこなかった。LPと合わせても両手に満たないくらいだ。その中にはバーンスタイン/ニューヨークの録音も含まれていて、なかなかいいなあといった記憶が、やけに遠い昔のことのようで色褪せているのだった。ハイドンであればむしろ、端正でわかりやすい弦楽四重奏、それに最近よさがわかってきたピアノソナタあたりのほうを比較的聴いている。
そこに、バーンスタインのシンフォニー・エディションが登場。正直言ってハイドンは眼中になかったが、このセットには7枚も含まれている。マーラーの次に多い。全曲を網羅しているベートーヴェンやチャイコフスキーよりも多い。こりゃ、一生かかっても聴ききれないなあと思いつつ、ネットサーフィンのBGMくらいならいいだろうなんて軽薄な心構えで聴いてみたわけだ。われながら、面妖な行動である。
「熊」。なんなんだ、このはち切れんばかりのイキの良さは。登場する楽器がことごとく活気に溢れていて躍動感にみち満ちている。身体中の血のめぐりが二倍速になったような興奮。アンサンブルが特に傑出しているわけではないものの、一気呵成の推進力とピチピチはずむ弾力感が抜群なのだ。赤ちゃんの肌か。もしもカルロス・クライバーが満を持してこの曲を振ったとしても、これだけの高みには行き着かないかもしれない。
バーンスタインの、これはホームラン。マーラーを振ったものよりも、むしろ楽しそう。
1962年5月、ニューヨーク、マンハッタン・センターでの録音。
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松下幸之助の本 淡々と描かれていて、かつ、じわりと重厚です。常に社員のこと、ひいては生活する人の視点に立った経営ではないかと感じました。これ一冊しか読んでいないのですが、戦後の日本を立て直した企業人の考えの一端を知ったように思います。
やはりバーンスタインのハイドンは良いですか!
「熊」という曲、他の演奏を聴いたことがないのでなんとも比較しがたいといいつつ、これはいい演奏だと思いました。なんともイキのよいものです。カザルスもよいものなのですね。