エルネスト・アンセルメ指揮 スイス・ロマンド管弦楽団・合唱団高田純次の「人生の言い訳」を読む。
抱腹絶倒の名作「適当日記」から数年。またまた笑わせてくれるのか、大いに期待して読み始めたが、これはわりに神妙なエッセイだ。作者の半生をシリアスに語っているので笑いどころは少ない。ところどころ挟んでいる小ネタは照れ隠しのようだ。
「芸能界ではときどき、『天下をとってやる!』という凄い意気込みで、本当に登りつめる人がいるが、僕はそんなことを思ってみたこともない。かといって、『あの人の次はあの人』みたいなポジションにいたこともない。『行間を漂うように生きてきた』。なんてときどき冗談を言うけど、まんざら冗談でもない」
言われてみればそうかも。行間の芸風は、ユニークであり、見ている人をホッとさせる魅力がある。
アンセルメの「夜想曲」、ステレオ録音のほうを聴く。
オケの技量は、正直言ってアメリカのトップグラスに及ばないが、おフランスの香り濃厚な雰囲気がいい。このオーケストラはしばしば弦楽の響きが薄いように感じるが、この演奏でもそう。重厚よりも軽やかさ。それがこの曲に合っているように思う。それには、管楽器を浮き上がらせる効果もあるようだ。あたかも、冬の晴れ渡った青空の一端にほんわかを浮かび上がる雲のようだ。フルートやトランペットやオーボエがいきいきと飛翔するところは気持ちがいい。
シンバルがまた軽い。
合唱はやはり少人数のようだ。量より質。精緻で幻想的。ひとりひとりのため息のような息吹がスピーカーから流れ込んでくる。
冬の夜、ワインを片手に20世紀初頭のおフランスを夢想するにふさわしい演奏なのダ。
1957年、ジュネーヴでの録音。
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