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"学生との対話"、アルティス四重奏団、"わが生涯より"

2014.08.09 - スメタナ

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小林秀雄の「学生との対話」を読む。

これは、小林が昭和36年から51年にかけて、九州で学生を対象に行った講演の記録。講義に加えて、学生からの質問に答える場面も収録されている。
小林は対談の名手でもあったから、ここでの講演でも切れ味がいい。文章と同じようなレトリックの冴えを放っている。
内容は主に「歴史」と「言い伝え」について多くを割いている。前者は本居宣長、後者は柳田國男に対する解釈を披露する。
ひとつづつ引用する。

「歴史は決して出来事の連続ではありません。出来事を調べるのは科学です。けれども、歴史家は人間が出来事をどういう風に経験したか、その出来事にどのような意味合いを認めてきたかという、人間の精神なり、思想なりを扱うのです。歴史過程はいつでも精神の過程です。だから、言葉とつながっているのです。言葉のないところに歴史はないのです。それを徹底して考えたのが宣長です」。

「証拠がなければ信じないという今日の流行思想によって、お化けは、だんだん追い払われるようになったが、何処から来るとも決してわからぬ恐怖に襲われる事は、人間らしい傷つき易い心を持って生活をつづける限り、無くなりはしないのです」。








ウイーン・アルティス弦楽四重奏団の演奏で、スメタナの弦楽四重奏曲1番「わが生涯より」を聴く。

スメタナは40歳頃の時に、耳がまったく聴こえなくなった。原因は梅毒である。その時、「わが祖国」の「高い城」を書いていた。やむなく劇場生活から引退し、その2年後の1876年にはアパートを人手に渡して、なんとか生活をしのいでいた。「わが生涯より」は、この年に書かれた。

1楽章の、ヴィオラの決然としたメロディーが印象的。悲壮感が漂っているが、力強い。このメロディーは終楽章にはヴァイオリンによって回帰される。このくだりは感動的だ。
2楽章は、初演の際にプラハ四重奏団から演奏不能とされた難曲であるが、アルティスは余裕の技巧でもって、陽気に生き生きと弾ききっている。中間部は甘い。いかにも「長い間暮らした貴族社会の思い出」という感じ。
ラルゴの3楽章は、悲痛ななかに、憧憬が色濃く醸造されており、アルティスは微妙なポルタメントを効かせて丁寧に演奏している。
終楽章は自由なソナタ形式で、要所にスラヴ風の舞曲が折り混ざった活発な音楽。ただ、最後は暖かい余韻を残しつつそっと終わる。

アルティスの演奏は全体を通して、合奏力もソロも上質。


ペーター・シューマイヤー(ヴァイオリン)
ヨハネス・マイスル(ヴァイオリン)
ヘルベルト・ケーファー(ヴィオラ)
オトマール・ミュラー(チェロ)

1992年9月、オーストリア、ハインツェンドルフでの録音。




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Comment

スメタナの生涯の如く - yoshimi

こんにちは。
”わが生涯”は、スメタナの人生の明暗を感じさせる展開の曲ですね。
第4楽章は「民族的な要素を音楽で扱う道を見いだし、せっかく仕事が軌道に乗り出して喜んでいたところへ、失聴というカタストロフィーが襲いかかり挫折するところまでを描く」とスメタナが記していたそうです。
不気味で悲愴感漂うトレモロは”失聴”という運命ですね。
第1ヴァイオリンのキーキーという高音は、”幻聴”と解説している人もいますが、”耳鳴り”の音でしょう。
エンディングは、スメタナの悲愴な最後を予見させるような漠然とした不安感や暗さがありますね。
2014.08.10 Sun 12:39 [ Edit ]

切ない曲です。 - 管理人:芳野達司

yoshimiさん、こんにちは。
スメタナの生涯はわずか50年、さらに耳が聴こえなくなったのは40歳とのことですね。ベートーヴェンもそうですが、耳が聴こえぬのに作曲をするという精神状態は、想像が及びません。
2楽章と4楽章は明るい色調の部分が多いので、余計にラストの静けさが切なく感じます。
なるほど、第1ヴァイオリンの高音は、”耳鳴り”ですか。ここからコーダが始まるわけですね。あっさりとした締めくくりが、なんとも云えない後味を残します。
2014.08.10 16:37
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