スメタナ「わが祖国」 レヴァイン指揮ウイーン。フィル松田公太の「仕事は5年でやめなさい。」を読む。
元タリーズコーヒー・ジャパン社長の著名は過激だが、実際に会社を辞めろということではなく、5年ごとに目標を設定しなさい、ということを言っている。目標は具体的に設定するものであり、目的を達成するための手段である。となると、目的とはどのように設定すればよいのか?
著者はこう言う。
「これまでに受けた強烈な体験、悔しかったり悲しかったりした経験のなかにこそ、その人の人生の目的の芽がある」。
著者は米国に住んでいた子どもの時分に、「寿司」のことを馬鹿にされた経験があったという。「生の魚を食べるなんて、気持ち悪いな」。その悔しさをバネにして今、「食文化の架け橋」になることを決意して実行している。エラいことである。
私にそういった経験があるのか、しばし考えてみた。悔しかったり悲しかったりしたことは星の数ほどあるが、それを目的に転換するような考えには及ばなかった。そういうことが自分に可能であるのか、自信がないのである。
レヴァインの「わが祖国」を聴く。
この曲で印象的な演奏がふたつある。
ひとつはクーベリック指揮ボストン交響楽団のもの。細かいところまで目の行き届いた、なんとも完成度が高い演奏である。
もうひとつは、同じくクーベリックがチェコ・フィルを指揮した日本ライヴ。一期一会ともいえる、たぐいまれな感動の深さがある。
個人的にはこのふたつが圧倒的なので、他の演奏を聴いても、たまに軽くいいなあと思うくらいなので、さほど期待をしないようになっていた。
このレヴァイン盤もそうで、聴く前は、まあ読書のBGMくらいでいいかくらいの気持ちであったが、これがよかった。
まず「高い城」がいい。肉厚の弦楽器が激しくうねる、呼吸の深い演奏なのである。ウイーン・フィルがよく鳴っていて、気合いが伝わる。名演奏の予感がした。
「モルダウ」も悠々と鳴っている。コクがあってキレがある。ラスト付近でピッコロを咆哮させており、面白い。
「シャルカ」は激しくて、勢いのある弦とパンチのあるティンパニ、金管が効果をあげている。クラリネットの哀愁漂うソロもいい。
「ボヘミアの牧場と森から」はしっとりとした味わい。静と動とのメリハリがつけられていて、ほのかな炎のようにじわじわと燃える。
「ターボル」では厚い金管群が効いている。くすんだ黄金色のファンファーレ「汝ら神の戦士」がステキだ。とうとう出たという感じ。
激しく続く「ブラニーク」は圧巻。肉厚の弦楽器群が軋みをたてて突き進む。オーボエとフルートとクラリネットの三重奏が美しい。楽器を変えながら何度も鳴らされる「汝ら神の戦士」を聴いているうちにだんだんと高揚してくる。ラストで「高い城」が回帰されるところでは感動しないわけにいかない。
全体を通して、考え抜かれた演奏だ。「わが祖国」の名盤に加えたい。
1986年6月、ウイーン、ムジークフェライン大ホールでの録音。
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