ストラヴィンスキー「春の祭典」 ラトル指揮バーミンガム市交響楽団『もてない男』小谷野敦の「悲望」を読む。
これは、好きになった女から徹底的に忌み嫌われる状況を描いた私小説。
大学院で出会った女を気に入り、重厚なラブレターを出し続けるが徹底的に無視される。あきらめずにアタックを続けていると、呼び出しをくらってハンドバックで殴られる。それでもめげずに、とうとう女の留学先のカナダまで追いかけてゆく。
最後に一発逆転はあるのかというと・・・ない。
雰囲気を読みつつも譲らないコイツはハタ迷惑な男だが、気持ちはわかる。
気持ちはわかるのだ。
ラトルは「春の祭典」を3回録音していて、これは2度目のもの。覇気に溢れたみずみずしい演奏。
細かいところにも丁寧に焦点をあてていて、普段は聴こえない、もしくは聴き逃すような音がクッキリと耳に入ってくるところがある。心もち速めのテンポは流れよく、リズムが明快で気持ちがよい。迫力も申し分ない。ここにあるのは、原始的な息吹ではなく、ひたすら20世紀後半の都会のスマートさだ。
ラトルは、録音当時30歳をちょっと越したくらいだが、オーケストラの鳴らせ方はとてもうまい。何十年のキャリアがある人でも、なかなかこうはいかないだろう。それでも聴き終わった後の印象はふしぎに薄い。いい指揮者だと思うものの、器用貧乏なところがあるように思う。
バーミンガム市響は、スーパーではないものの、なかなか切れ味のある響きを聴かせる。
1986年10月、イングランド、ウォーリック大学芸術センターでの録音。
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