宮崎駿監督の「風立ちぬ」を観る。
これは、飛行機の設計家と結核を病んだ女との恋愛映画。
舞台が第二次世界大戦であることと、主人公がゼロ戦の設計に関わることから、観る前はキナ臭い雰囲気を感じていたが、特定のイデオロギーを打ち出した作品ではこれはない。あえて踏み込まなかったというよりは、さして気にしていなかったのではないかと私はみている。
それよりも、街や電車の風景に昭和初期の面影が濃く、ノスタルジーをそそる。なにしろ映像が美しい。
そして印象的なのは煙草。登場する男性のほとんどは、教室だろうが火事の中だろうが、あたりかまわずスパスパやっている。挙句の果てには、主人公は結核の女房の手を握りながら一服つけている。
すばらしい。昭和である。
貧乏だけれども、世知辛くない時代の趨勢を、はっきりとここに見ることができる。
喫煙シーンを非難するバカは、映画もテレビも見るな。
東京カルテットによりシューベルトの「弦楽五重奏曲」を聴く。
シューベルトの死の年に作曲された遺作。死の22年後の、1850年になってようやく初演された。
言うまでもなくこれは、彼の後期の作品群のなかでも、最強の音楽のひとつ。
これを東京カルテットがどう演奏するか。期待を超える出来栄えであった。
アンサンブルは実に緻密。なにげなく弾いているように感じるが、全ての音に思い入れが入っている。一聴、軽やかであるが、フレーズのひとつひとつに細やかな気配りがあり、デリケートこの上ない。
2楽章は幽玄の境地。曲そのものも凄いが、この演奏の、淡い情感の塩梅は筆舌に尽くしがたい。
というわけで、このディスクは、最強の音楽のおそらく最強の演奏のひとつである。
東京カルテット:
マーティン・ビーヴァー(ヴァイオリン)
池田菊衛(ヴァイオリン)
磯村和英(ヴィオラ)
クライヴ・グリーンスミス(チェロ)
デイヴィッド・ワトキン(チェロ)
2010年9月、ロンドン、エア・スタジオでの録音。
ペドロのジャンプ。
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