シューベルト「美しき水車小屋の娘」 ヨゼフ・プロチュカ(T) ヘルムート・ドイチェ(Pf)ウィリアム・フリードキン監督の「フレンチ・コネクション」を観る。
フランスの国際麻薬組織とアメリカ警察との格闘を描いていて、ことに主役を演じるジーン・ハックマンのはみだし刑事ぶりがいい。
地下鉄での尾行、カー・アクション、電車ジャックなど見どころが満載であり、この後に続く刑事アクション映画の先駆けとなった映画といえる。その新鮮さは今となっても色褪せない。
実話を元にしたフィクションであり、後味は少々苦い。
さて、プロチュカの「水車小屋」。
社会に出てまもない若者の失恋を歌った音楽であるが、この曲におけるいわゆる世評高い演奏には、感情を内に抑えた歌が多いように思う。
ヴンダーリヒ、シュライアー、プライ、ブロホヴィッツ、ディースカウ、ヘフリガー、プレガルディエンなどの盤は、全体的に感情のみずみずしさを歌い上げつつ、つらさをじっとこらえた演奏になっているように感じる。
このプロチュカ盤は、若者のいきりたつ感情を露わにした激情的な歌いぶりで異彩を放つ。
ときに音程が怪しくなる場面もあるけれど、そうしたことよりも音楽の勢いというか、傷ついた若い男の荒ぶった感情の表出を前面に押し立てた演奏になっている。
それは、どちらかといえば、恋の失敗を悟った後半の部分よりも、彼女と出会ったばかりの、まだ期待が大きい時期の前半部分に見受けられる。
憧れの強さと、感情の起伏の大きさが比例しているような歌いぶりである。通常は、望みが断ち切れた「緑のリボン」以降からだんだんと感情的になってゆくことが多いのだが、この演奏は逆なのである。
「緑のリボン」以降は、むしろ冷静で諦観したような歌を聴かせる。
テンポをどっしり落としてじっくり歌いあげた「小川の子守歌」は、感動的である。
プロチュカの声は、透明感があり、適度な厚みもあって、美声というにふさわしいものだ。
それを十全に生かしているのが後ろの10曲であり、内面の葛藤を激しく表した前半は、もちろん美声ではあるけれども、ありあまる感情を抑えきれない男の率直さを歌ってやまない音楽になっている。
ドイチェのピアノは、控えめながら要所をきっちり押さえていて不満なし。
1985年12月~1986年3月、ドイツでの録音。
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