シューベルト「美しき水車小屋の娘」 ペーター・シュライアー(T) アンドラーシュ・シフ(Pf)先週のことになるが朝日新聞に「アエラ」の広告が出ていた。今週号に勝間和代と香山リカとの対談が掲載されているということでその一部が載っていたのを読んだ。
勝間「デリバリーでとったサンドイッチがおいしくて幸せでした」
香山「ご飯で幸せになれるんだったら、別に仕事で成功したり、資産を増やさなくてもいいんじゃないですか」
怖い。怖すぎる。
怖いもの見たさで思わず買ってしまった。
対談は「がんばらない」擁護派の香山対バリバリのビジネス成功者勝間との対決の様相。「カツマー」を目指した女性たちが挫折してうつ病に陥るケースが多いことを香山が最近の著作に書いていたが、その期待を裏切らない展開である。香山がネチネチと勝間に絡む。その糾弾は激しく、喧嘩になるんじゃないかと思うくらいなのだが、勝間がそれに実にしんぼう強く答えている。忍耐力と冷静さ、さすがである。
勝間は、ジンセイにおいてはスーパーマンを目指すのではなく努力するプロセスを楽しむことが大事なのであって、努力がつらくなったらやめればいい、ということを言っている。穏便である。ちょっと普通すぎて面白くない。
どうせなら香山の誘導にのって「アタシの書いた本を鵜呑みにする奴はバカなのよ」くらい言って欲しかった。言うわけないか。
この演奏はシュライアーが4度目に収録したものであり最後のスタジオ録音になるわけだが、声の衰えはあまり感じさせない。
先の3度の録音とは微妙に異なるテンポや強弱をつけているから、印象は若干異なるが、歌うというより語っているようなシュライアー独特の演奏スタイルは最初の録音から変わっていないし、ここにきてより磨きがかかっている。
シフのピアノはすみずみまで目の行き届いた精緻なもの。ひとつひとつの音に豊かな表情がある。ただ、それは神経質なまでに細かいものだから、場面によっては少しうるさいと感じることがある。
というのはシュライアーの歌はかなり感情を抑制したものなので、ピアノが目立つところが少なくないこともあるのだ。ひとつひとつは些細なことだが塵も積もれば、である。
それぞれの曲で印象的なのは、「休息」と「おやすみ」。前者のたっぷりとしたテンポと間は絶妙。後者は速めのテンポで淡々と進む。この曲においては多くの歌手が思い入れたっぷりにゆっくりじっくり歌うことが多いが、この演奏は逆をゆく。さらさらしていてひっかかるところがない。
あまりにあっさりしているところに練りに練った手だれの技をみる、といってもあながち穿った見方ではないと思う。
山水のように澄んだ歌は感情の彼岸にあるかのようだ。だから、この演奏からは「若者」の浅はかさや正直さ、そして異性へのパワーといったものをあまり感じることができない。経験豊富で老練な技が前面に押し出されている。
よって、私はシュライアーの演奏ではオルベルツとの初回の録音かラゴスニヒとのものをとる。
1989年4月、ウイーン、コンツェルトハウス・モーツァルトザールでの録音。
PR