カルロス・クライバー指揮ウイーン国立歌劇場・他の演奏で、R・シュトラウスの「ばらの騎士」を観ました(1994年3月、ウィーン国立歌劇場でのライヴ)。
指揮者をはじめとして、当時のオールスター・キャストによる舞台。
まず、ロットがいい。
元帥夫人の、自身の老いについての嘆きは、このオペラのひとつの大きなテーマです。ロットは姿かたちといい、歌い回しといい、風格たっぷり。そして匂い立つような気品があります。1幕最後のほう「時を恐れなくていいのよ」のくだりは、とりわけ印象的です。
オッターのオクタヴィアンは、いいようもなく素晴らしい。
彼女はリートをやると、少し声が暗めで、曲が陰鬱になることがしばしばありますが、この役は文句のつけようがありません。若々しくて力強く伸びのある声、ユーモラスな演技、立ち居姿の美しさ、申し分ない。これはハマリ役でしょう。
モルのオックスも鉄板。彼はこれより10年ほど前のカラヤン盤でも同じ役を歌っています。ふてぶてしさ、いやらしさ、力強さ、そして深い呼吸とスプーンひと匙の愛嬌を持ち合わせています。
ボニーのゾフィーは軽やかで清楚、それはあたかもルチア・ポップを思わせる歌いぶり。単純だけれど実直な役柄をうまく演じています。彼女は、リートを歌うときのスタイルと、あまり違いを感じません。
ラスト近くの三重唱は、3名の持ち味がそれぞれくっきりと引き立っています。人生の落日を迎えつつある女の諦念と、愛し合う男女(ふたりとも女声ですが)の希望とが交錯し、生きることの深い奥ゆきを感じさせてくれます。
さてオーケストラ。3幕でオックスが退場するとき、唐突にクライバーの指揮姿が映されます。恐ろしく躍動感漲る指揮ぶりです。しなやかで、スピード感に溢れていて、はずむような弾力性があり、魅せられます。またそれが、うまく音楽に連動している。
いままで観たベートーヴェンやブラームスの映像もいいけれど、これはもう、圧巻としか言いようがありません。
国立歌劇場のオーケストラは艶があって機敏、そして濃厚。間然するところがない。こういう演奏を聴くと、ウイーン・フィルはやはりオペラかな、という考えがよぎります。
演出は、いたってオーソドックス。舞台はロココの意匠で統一されているようです。
元帥夫人:フェリシティ・ロット(S)
レルヒェナウの男爵オックス:クルト・モル(Bs)
オクタヴィアン:アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(Ms)
ファニナル:ゴットフリート・ホーニク(Bs)
ゾフィー:バーバラ・ボニー(S)
マリアンネ:オリヴェラ・ミリャコヴィッチ(S)
ヴァルツァッキ:ハインツ・ツェドニク(T)
アンニーナ:アンナ・ゴンダ(Ms)
歌手:キース・イカイア=パーディ(T)
元帥夫人の執事:ヴァルデマール・クメント(T)
美術:ルドルフ・ハインリヒ
衣装:エルニ・クニーペルト
演出:オットー・シェンク
パースのビッグムーン。
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