飯守泰次郎指揮による東京フィル他の演奏、ゲッツ・フリードリヒ演出の、ワーグナーの「ラインの黄金」公演に行く。
なにしろオーケストラが素晴らしかった。通して聴いた限り、瑕疵はなかった。全曲でおよそ2時間35分。長さもさることながら技術的にも簡単ではないであろうこの曲を、いともたやすく弾いていた。
このオーケストラが9月にやったマーラーの9番を聴いているが、ホルンを中心としてポロポロとミスがあった。同じオーケストラとは思えない完成度を今日は示していた。
ヴォータンがアルベリヒから指輪を奪い取るシーンでの、チェロとコントラバスの荘重でいかめしい響きはとくに印象に残る。
歌手は、ラインの乙女とアルベリヒを気に入った。
乙女は最初、オーケストラの音量に負けていたが、やがて修正をし、えも言われぬ幻想世界を繰り広げた。三人とも声質が違うのも一興で、それぞれ面白く、なにより声が揃ったときの溶け具合は夢心地。あまりにも気持ちがいいので、数分の間、気を失ってしまった。
アルベリヒは、重厚な声をもって朗々と歌っていた。うまい具合に下品な雰囲気を纏いつかせ、独特のキャラクターを演じることに成功していたと思う。
ローゲは深く柔らかい声。いかにもインテリヤクザのような佇まい。
ヴォータンは、いささか声が荒かったように感じた。普段、ホッターやアダムの歌を聴いているから余計にそう思うのかもしれない。
演出はよくわからない。というのはZ席だったため、舞台は半分も見えなかったから。3場の2階建ての工夫は、かろうじてわかった。
それでも、格安でこういうレベルの高い演奏が聴けるのならば、足を運ぶ価値はじゅうぶんにある。
ヴォータン:ユッカ・ラジライネン
ドンナー:黒田 博
フロー:片寄純也
ローゲ:ステファン・グールド
ファーゾルト:妻屋秀和
ファフナー:クリスティアン・ヒュープナー
アルベリヒ:トーマス・ガゼリ
ミーメ:アンドレアス・コンラッド
フリッカ:シモーネ・シュレーダー
フライア:安藤赴美子
エルダ:クリスタ・マイヤー
ヴォークリンデ:増田のり子
ヴェルグンデ:池田香織
フロスヒルデ:清水華澄
演出:ゲッツ・フリードリヒ
2015年10月4日、東京、新国立劇場にて。
夜カフェ。
重版できました。
「ぶらあぼ」4月号に掲載されました!PR