小林秀雄の対話集「直感を磨くもの」から、三木清との対話「実験的精神」を読む。
三木は唯物史観の人間学的基礎づけを試みたものの、治安維持法違反でたびたび投獄され、敗戦直後に獄死した哲学者である。この対話は戦争に突入した1941年に行われた。
ふたりの対話は長いものではないが、ゆったりと寛いでいる感があり、お互いに云いたい事を自然に発言しているように思われる。
ことに三木のこの言葉は、今こそ新鮮であろう。
「人間というものは進歩しないね。科学が発達すれば戦争が無くなるとよく人が言っていたが、そんなことは嘘だということは、今度の戦争で証明されたわけだ。何しろそういうものだな。進歩の思想は人間を浅薄にする危険があるね」。
アンスネスのピアノでリストのピアノ曲集を聴く。
「巡礼の年」第2年「イタリア」より第7曲「ダンテを読んで:ソナタ風幻想曲」
「忘れられたワルツ」第4番
「メフィスト・ワルツ」第4番
「ノンネンヴェルト島の僧房:悲歌」(ピアノ用編曲)
「バラード」第2番ロ短調
「メフィスト・ワルツ」第2番
「詩的で宗教的調べ」より第9曲「アンダンテ・ラクリモーソ」
「メフィスト・ワルツ」第1番“村の居酒屋での踊り”
アンスネスはいつも丁寧なニュアンスづけを怠らないピアニストであるが、このリストでも例外ではない。
ことに「ダンテ」や「居酒屋」では超絶技巧が求められると思われるが、それをあからさまにせず、なんの苦労もないように弾いてのけ、さらにピアニッシモやピアノの響きを入念に磨いて聴き手に提示してくる。
「忘れられたワルツ」はセンチメントを隠さず、ややビターな味付けを施した大人のお菓子。
「メフィスト・ワルツ4番」は、激しさの中に愉悦のエッセンスを織り交ぜた一口サイズの小料理。
「悲歌」ではじっくりと覚悟をもって悲しみに没入する。大きなうねりが情熱をかきたてる。ピアニッシモはことに美しい。
「バラード」は調性が同じ「大ソナタ」の佇まいを彷彿とさせる。この演奏では14分かかっており、単品としてはいささか冗長な音楽である。
「メフィスト・ワルツ2番」はめくるめく技巧の応酬が眩しい。左手の厚い和音の上に右手の高音が天空に舞う。
「アンダンテ・ラクリモーソ」はどこまで潜っても底の見えない湖のように深い。ピアノのタッチは繊細を極めている。打鍵したのかわからないような、闇のなかからふっと音が出現するような場面があってハッとする。
1999年5月、2000年9月、ロンドン、アビー・ロード・第一スタジオでの録音。
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