メンデルスゾーン ピアノ三重奏曲 アックス(Pf) パールマン(Vn) マ(Vc)真鍋圭子の「素顔のカラヤン」を読む。
81年のベルリン・フィルの東京公演。これを私はFMで聴いていたが、「ボレロ」の演奏で事件が起こった。
トロンボーンのソロが最初から最後までハズレっぱなしだったのだ。それは、アマチュアアケでもやらかさないような、派手なもの。何人かの友人もこれを聴いていたのだが、その一人が言うには「あのトロンボーン奏者はショックで自殺したらしい」。
その後、30年あまりその説を信じていたわけなのだが、本書によってそれはデマだったことがわかった。
このときのソリストは試用期間中の若い団員で、トロンボーンのトップであったドゥーゼ=ウテシュの勧めで起用したとのこと。
カラヤンは演奏後、「郵便配達人にでもなればいいのに!」などと呟いたそうだが、その若い団員は、やがて試用期間を終了して正規の団員になったという。
パールマン、アックス、マのトリオでメンデルスゾーンを聴く。
ライナー・ノーツでアックスはこう語っている。
「メンデルスゾーンの音楽には、メンデルスゾーンという人間もきっとこうだったに違いないと思わせるものがある。生気にあふれ、深い感動を湛え、物惜しみしない気前の良さがある」。
あの奇跡のような八重奏曲や「真夏の夜の夢」序曲を10代で書いたメンデルスゾーンは、その後成熟していっても(若くして死んだわけではあるが)、その瑞々しさを失うことはなかった。
このピアノ・トリオもそう。
冒頭のチェロによる哀愁漂うメロディーにしろ、可憐にして不思議な重量感のある2楽章、トリッキーな動きが活発なスケルツォや、スプーンひと匙の焦燥感がスパイスとなり深みを湛える終楽章。どれも生き生きとしていて若々しい。
そんな曲を、仲良しトリオが軽やかに弾ききっている。どの楽器もよく鳴り、伸びやか。音楽の美点を余すところなく伝えている。全てが明るい日差しのもとに晒されていて、陰というものがない。
こういう演奏もいいものだ。
2009年3月 ニューヨークでの録音。
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