頭木弘樹の編訳による「絶望名人カフカの人生論」を読みました。
「バルザックの散歩用ステッキの握りには『私はあらゆる困難を打ち砕く』と刻まれていたという。ぼくの杖には、『あらゆる困難がぼくを打ち砕く』とある。共通しているのは『あらゆる』というところだけだ」
人生論やアンソロジーの類いはあまり好まないが、これはカフカの主に書簡から引用したものなので手に取りました。
文学で食っていきたいのに叶わず、愚痴ばかり漏らしながらサラリーマン生活を送る彼は滑稽とも見えますが、共感しないわけにいかない。ネガティヴもここまでくると力強い。
バルザックも好きだけれど。笑
アシュケナージのピアノ、ショルティ指揮シカゴ交響楽団の演奏で、ベートーヴェンのピアノ協奏曲1番を聴きました(1972年5月、シカゴ、クランナート・センターでの録音)。
先週にディスクユニオンで入手したピアノ協奏曲全集からの一枚です。
この全集は中学生のころの憧れだった。そのときはLPでしたが。図書館にたまたまあった「皇帝」を聴いた覚えはあるものの、その他の曲は初めて聴くかもしれない。これからとても楽しみです。
冒頭からシカゴの精確で硬質な弦の響きに魅せられます。力強いだけではなく、羽毛のようなデリケートさで鳴らしている部分もある。ピアノとのタイミングも完璧に近い。硬軟織り交ぜたショルティの統率力とオーケストラの妙技も、この演奏の大きな聴きどころ。
そしてアシュケナージ。とにかく音が綺麗。録音でもこんなに澄み切った、そして温かみのある音色はそうそう聴くことはできない。ミケランジェリはジュリーニと入れた1番の演奏で壮絶なまでに磨き抜かれた音を聴かせてくれますが、アシュケナージのは丸みがある。同じ美しいでも、少しタイプが異なります。とりわけ、1楽章のカデンツァの色鮮やかなことと言ったら! 音楽を聴く喜びに包まれます。
ショルティとアシュケナージが遺した録音は、1970年代のものがひときわ優れていると感じます。
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