奥田英朗の「家日和」を読む。
これは、夫婦を扱った6つの短編集。
インターネットのオークションにハマッて、夫の宝物を次々と出品する妻、会社が倒産して専業主夫に勤しむ旦那、内職の営業マンを気に入って毎晩淫夢を見る妻。。
なかでも面白かったのは、妻と別居することになり、仕方がないのでマンション購入のための貯蓄をAV機器の購入やインテリア用品につぎ込む夫の話。
結婚してからは自分の部屋を持てなかったため、ここぞとばかりに高価なステレオ装置やホームシアターセットやソファを購入する。その話を聞いた会社の同僚が、まるで一人暮らしの学生のアパートに溜まるがごとく、わらわらと集まる。そして、彼らが若いころに聴いたり観たりしたレコードやDVDをかけて感涙にむせぶ。
居酒屋でひとり読みながら、笑ってしまった。
変人かと思われたかも。
ギレリスのピアノで、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ30番を聴く。
ギレリスのベートーヴェンを、後期に関しては「ハンマークラヴィーア」しか聴いたことがなかった。あれはとても力強く、硬質でがっしりした演奏だった。
それに比べるとこの30番は、力強さだけでは一本調子になってしまう。剛にたいする柔。こうした曲を、ギレリスがどう弾くか楽しみだった。
冒頭から、クッキリと澄んだ明るい色の音。響きは重すぎず軽すぎず、いい塩梅。
2楽章は、この曲のなかでは比較的「剛」だが、ときおりスタッカートを利かせて、起伏のある音楽を形作っている。
終楽章の変奏曲は、いかにもベートーヴェンの後期の匂いがぷんぷんする思索的な音楽。ギレリスは、たっぷりとしたテンポでもって、慈しむように奏でる。音はやや硬めのアルデンテ。
変奏1は、厚みがあってスケールが大きい。
変奏2は、多彩でかつ不思議なユーモア感がある。
変奏3は、毅然としている。決して焦らない。やはり大きい。
変奏4は、小さなテンポと強弱の変化がとても効果的。考え抜かれた演奏だという気がする。この部分を聴くだけでも、このディスクを聴く価値はある。
変奏5は、昔に言われた「鋼鉄のピアニズム」の一端を垣間見ることができる。
変奏6も、丁寧。ひとつひとつの音に生命が宿っているかのよう。
録音はやや硬いため最上とは言えないが、ヘッドフォンで聴くと柔らかさが増すような気がする。
1985年8,9月、ベルリンでの録音。
インド洋。
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