ベートーヴェン「クロイツェル・ソナタ」 ズーカーマン(Vn) バレンボイム(Pf)谷沢永一の「百言百話」は、ピリ辛名言集。本からのものばかりではなく、「男はつらいよ」など映画のセリフも入っている。
「個性々々と云って、一つの石ころが他の石ころと違うことを得意になっても、お前さん方を大勢一緒に集めて見たら、ただの『砂利』ではないか」、とは広津和郎の言葉。
人間の虚栄心を擽るのに、個性的という言葉ほど便利なものはないとし、なかでも醜女を評する場合はもっとも重宝すると、谷沢は手厳しい。
とはいえ当方も年をとるにしたがって、個性的という言葉の価値は下がっていくように感じる。
ズーカーマンとバレンボイムの若いころの記録。ふたりの覇気がいい。
70年代後半あたりからは、しんなりと澄んだ響きを聴かせるズーカーマンが、ここではけっこう荒っぽい。1楽章は切り込みが鋭いし、2楽章は「運命」のリズムを乾いた音で刻んだりして、たっぷりと感情が入っている。
バレンボイムも同様に激しい。ときにものすごい強い音の打鍵、じっくりと粘るタメ。振り幅が広い。
ときに、ズーカーマン22歳、バレンボイムは28歳。
若くして世に出たふたりに対して、いままで年齢のわりには大人びた演奏をするイメージがあったが、このクロイツェルは触るとやけどしそうに熱い。
彫りは浅めで、そのぶん勢いがある。面白い演奏だと思う。
1971年3月の録音。
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