ベートーヴェン「皇帝」 ペルルミュテール(Pf) ヴェヒティンク指揮ウイーン祝祭管弦楽団鉄道紀行文学の第一人者である宮脇俊三のエッセイ「旅は自由席」を読む。
「構内の一隅に国鉄より一段見すぼらしい関東鉄道常総線のホームがあり、色褪せたディーゼルカーが気だるそうに日を浴びている。ムラムラと乗りたくなってきたが、これに乗ると常磐線の取手という東京近郊へ戻ってしまうので自重し、予定どおり真岡線、烏山線のルートをたどることにする。」
国鉄の表記がいかにも古いが、HPによると、関東鉄道の車両は形状こそ現代的なものの、今もディーゼルのようだ。
ムラムラしてきた。
ペルルミュテールのベートーヴェン録音は比較的珍しいと思うが、これは一級の演奏。冒頭のカデンツァから、音がなんとも輝かしい。丸くて弾力があり、それでいて芯がしっかりしている。ことのほかトリルが素晴らしく、まるでたくさんの真珠が手からこぼれ落ちるよう。
その一方でダイナミックもじゅうぶんきかせる。3楽章の第1主題はたっぷりとした重みを保ちつつ、快速に弾きこなしている。
ヴェヒティンクという指揮者は初めて聴いたが、この演奏は手練のもの。全奏から木管楽器を浮かび上がらせるところなど、実に鮮やか。現場経験の長い指揮者とみた。
オーケストラは特段目覚ましいとはいえないものの、朴訥な手触りが楽しい。
1960年、ウイーンでの録音。
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