F・P・ツィンマーマン(Vn) テイト指揮イギリス室内管弦楽団勝間和代の「断る力」、佐藤優が薦めていたので読んでみたが、面白くなかった。
「断ることによるデメリットは思ったより少ない」ことは確かにそうだ。けれども、断ることのメリットをいろいろな角度から検証したところで、結局はいかに自分が得をするかの算段なのである。割り切ってしまえばそれもひとつの見識だが、全体に新味に欠ける。他の凡百のビジネス本と変わらない。代替可能なものだ。それならば、目次だけを眺めればいい。もう遅い。
ツィンマーマンとテイトによるベートーヴェン。ツィンマーマンの密度が濃い音色は期待通りだが、あまり気にしていなかったテイトの指揮がとてもいいので、こちらがむしろ印象に残った。
ひとつひとつの楽器を明瞭に聴きとることができるのが気持ち良い。思わぬところでホルンやファゴットが顔を出したりして、軽い驚きがある。室内楽団のメリットとも思いつつ、その反面、マスの厚みも十分に備えている。目隠しで聴いて、これはロンドン響といわれたら信じるだろう。テイトという指揮者を、あまり多く聴いているわけではないのだけど、特に弦楽器を重く、厚く弾かせることが多い印象があった。それを、この演奏で思い出した。
あと、ティンパニを前面に出していることろが面白い。もともとティンパニが活躍する曲だけれども、こんなに存在感がある演奏は初めてかもしれない。トランペットと溶け合う音は、マイルドで強いコシがある。
ツィンマーマンはメリハリのあるヴァイオリンを聴かせる。いつも通り直線的・鋭角的なもので、触れたら痺れてしまいそうなキレがある。その一方で、要所でポルタメントをかけて、昔風の甘味をつけるところがまたこの人の持ち味である。1楽章のカデンツァで大きな変化をみせるところ、好みは分かれるかもしれないが、面白いと思う。
1987年11月、ロンドン、アビーロード・スタジオでの録音
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