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グルダとシュタインのベートーヴェン「ピアノ協奏曲第5番"皇帝"」

2008.06.24 - ベートーヴェン

gulda

ベートーヴェン ピアノ協奏曲全集 グルダ(Pf) シュタイン指揮ウイーン・フィル


姜尚中の「悩む力」を読む。
夏目漱石とマックス・ウェーバーの作品を引用しつつ、さまざまなジンセイの悩みについて解いてゆく。
『何のために「働く」のか』の項では、人は金のためにも働くのであるが、それ以上に「他者からのアテンション」のために働くのだと語る。ここでいうアテンションとは、ねぎらいのまなざしを向けるということである。
それはすなわち「社会のなかで、自分の存在を認められること」に他ならず、「見知らぬ者同士が集まっている集合体」のなかで、他者から「仲間として承認される」ことが働くことだと言う。
なるほどとは思いつつ、これはさほど新しい意見ではない。この類の考え方は、いままでの多くの古今の作品から読むことができるから、発想そのものはむしろ従来からの反復といえる。
この本の魅力は新しい考えにあるのではなくて、むしろ、姜の優しい眼差しにあるようだ。
ヒトに対してもモノに対しても、彼はふくよかで、かつ大きな手のひらで読者を包みこむ。それは漱石やウェーバーについての深い解釈にもよるかもしれないが、彼のキャラクターから滲み出る包容力が大きいのだと思う。
この本の根底に、人間に対する優しさが横たわっている。


グルダの弾くベートーヴェンのピアノ協奏曲、この「皇帝」で全部聴くことができた。
1番から4番まで、まんべんなくいい演奏だったので、これも期待していたが想像通りすばらしい出来上がりである。
羽毛のように軽やかな音色を醸し出すグルダのピアノは、適度な起伏と情感をもっていて、生き生きしていることこのうえない。なんて自在な音楽なのだろう。
シュタインのオケもすばらしい。全ての楽器がこれ以上は考えられないくらいのみずみずしさで鳴っている。
スケールの大きさはさほど感じられないものの、今生まれたかのような鮮烈な生命力は、まったくかけがえのないものだ。
ジンセイで初めて「皇帝」を聴いたときの喜びと感動が、新鮮に蘇ってくる。
ベートーヴェンを聴く楽しみが満載だ。
同曲では、ミケランジェリとチェリビダッケ/パリ、バックハウスとクナッパーツブッシュ/ベルリン、それとグールド/ストコフスキーを気に入っているが、これはそのどれとも違ったユニークさがある。
これは掛け値なしの名演だと思う。

1970年、ウイーンでの録音。
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Comment

無題 - rudolf2006

吉田さま こんばんは

いつも、ブログの更新 愉しみにしております。

姜尚中さん 私も大好きです。
在日として、言葉にするのも嫌なほど苦労されてきていると思うのですが、その「温かい眼差し」は、姜尚中さんに敵対する人にまで向けられていますよね。対談でも、朝までテレビなどでも、実に冷静な分析、その語り口、いつも感心しています。

グルダ、シュタインさんのベトベン
実に良いですよね、私はこの演奏を聴くまで、シュタインさんのすごさには気づかなかったです。オケストラが実に新鮮な演奏をしています。グルダのピアノも、もちろん良いのですが~。私はオケストラの伴奏の素晴らしさに感動してしまいます〜。

ミ(`w´彡)
2008.06.24 Tue 22:44 URL [ Edit ]

Re:rudolf2006さん、こんばんは。 - 管理人:芳野達司

コメントありがとうございます。

姜尚中さん、私も何度か「朝まで生テレビ」で見ましたが、声もいいですよね。在日としての苦労もあったかと思いますが、この本では人間に対する温かい眼差しを強く感じました。
今の主な産業は「サービス業」であるということ、大学教授も例外ではないというくだりは目から鱗でした。

この演奏、ずっと昔から聴きたかったのですが機会がなく、rudolf2006さんのブログがダメオシの押しとなって、ようやく聴きました。
あまりにも良いです。参りました。
グルダとシュタイン以上の全集以上は、とても私の頭では想像できません。
このCDは、これから何度となく聴いていくことになると思います。
2008.06.25 21:17

無題 - mozart1889

ああ、懐かしい演奏、思い出深い1枚です。
僕がクラシック音楽を聴き始めた頃、1980年だったと思います、グルダ/シュタインのベートーヴェンが1番から4番まで廉価盤で再発売されました。キングの1,500円LPです。素晴らしかったですねえ。グルダのピアノも良かったですし、シュタイン/VPOのバックも最高でした。(ですから、シュタイン/VPOのワーグナー管弦楽曲集も買ったことを覚えています)
「皇帝」だけはレギュラー盤だったんです。キングの「ベリー・ベスト・クラシック」で2,300円。ビンボー学生だったんですが、どうしても欲しくて無理して購入したことを思い出しました。
今聴いても最高の演奏、吉田さんおっしゃるとおり、掛け値なしの名演ですね。
2008.06.25 Wed 08:07 URL [ Edit ]

Re:mozart1889さん、こんばんは。 - 管理人:芳野達司

コメントありがとうございます。

グルダとシュタインのベートーヴェンは、昔からみんながいいと言っていたのですが、なぜか聴くことがありませんでした。
何度も再発売されているということで、ある意味反発していたのかもしれません。
それでようやく最近になってこの全集を聴いたのですが、あまりのすばらしさに驚きました。
クラシックを聴き始めた頃に「皇帝」や7番交響曲を聴いたときの新鮮な感動が、いまよみがえったという感じです。
シュタインは、一時期N饗やバイロイトに登場している頃に聴いて、堅実な演奏をするヒトだと思っていましたが、このベートーヴェンは最高です。これ以上望むことがないくらい。
2300円で出ていたのを、うっすらと記憶しています。あの頃から聴いておけばよかったと思う半面、今こんなに感動できる意外なヨロコビも感じます。
2008.06.25 21:27

無題 - mozart1889

スミマセン。
4番の方でTBしてみました。古い記事ですが(汗)
2008.06.25 Wed 08:11 URL [ Edit ]

無題 - HIROPON

久しぶりにコメントさせていただきます。

グルダの「皇帝」はその昔、「グレートコンポーザー」という本とCDのセットで初めて聴きました。その時はふぅ~んという感じだったのですが、昨年グルダのベートーヴェンソナタ全集にピアノ協奏曲全集が一緒になったボックス物を買って開眼しました。

グルダも素晴らしいですが、やはりここはシュタインさんとウィーンフィルの伴奏が素晴らしいですね。ウィーンフィルは協奏曲を聴きたくないオケ、ナンバー1なのですが(オケの音をじっくり聴きたいから)、ここでは瑞々しい音楽にあふれています。

あと、私もミケランジェリとチェリビダッケの「皇帝」を持っていて以前自分のブログにも書いたことがあるのですが、演奏の素性がわかりません。簡単に教えていただけると幸いです。
2008.06.29 Sun 13:29 URL [ Edit ]

Re:HIROPONさん、こんばんは。 - 管理人:芳野達司

コメントありがとうございます。

グルダの「皇帝」を、遅まきながら聴きましたが、とてもしっくりきました。シュタインの指揮はいいですねえ。オーケストラの演奏は常にこうでありたいと思うような、生き生きと元気な弾きぶりです。
グルダも好調で、これを聴いてしまうと、もう「皇帝」はこれがあればいいのじゃないかと思うくらいです。
とはいえ、世界は広く、ミケランジェリもききのがせません。チェリビダッケとのものは、フランス国立管とかスウェーデン放送饗とのものがあるようですが、私はパリ管のものを昔に聴きました。海賊盤のLPで、60年代のモノラルでした。素性はよくわかりません…。後年のミケランジェリとは少し違う、剛毅な演奏で、鮮烈に記憶しています。
グルダとは違うよさのある演奏でした。
2008.06.29 20:33
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