イタリア弦楽四重奏団の演奏で、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲13番を聴く(1969年4月、スイスでの録音)。
これは1825年11月に完成されたベートーヴェン晩年の作品。当初は最終楽章に「大フーガ」が置かれていた。けれどもこの「大フーガ」は15分から20分を要する大曲であり、出版社などのメンバーから、「これはいささか難解だよ。それに、全体のバランスを考えるともっと小さい曲に差し替えたほうがいいんじゃね?」なんていうアドバイスを受けた。それを呑んだベートーヴェンは、もっとこぶりな音楽を作り、この曲の終楽章として差し替えた。これは結果的に、彼の最後の作品となった。
「大フーガ」を適切でないと見切った出版社の連中の批評眼もたいしたものである。
尚、本ボックスは、13番と「大フーガ」はディスクそのものが分かれている。13番は16番とカップリング。「大フーガ」は15番と。制作陣が、明確に異なる音楽だと意識していたのかもしれない。
イタリア四重奏団の音色は、とても密度が緊密で、肌理が細かい。たっぷりとミルクを入れた濃厚なコーヒーのようなコクがある。各奏者の技量は高いし、音程も合っていると思う。全体的にテンポは中くらい。落ち着きがあるし、スプーンひと匙のユーモアも。この団体のベートーヴェンもまた、安心して聴いていられる。今保有しているのは後期のボックスのみだが、前期と中期も聴きたいところだ。
件の最終楽章は、なんとも言えずいい。こんなに、愛らしい音楽が最後の作品とは。
ラストは潔い。明るく、「サラバ!」
パオロ・ボルチャーニ(ヴァイオリン)
エリサ・ペグレッフィ(ヴァイオリン)
ピエロ・ファルッリ(ヴィオラ)
フランコ・ロッシ(チェロ)
パースのビッグムーン。
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