ヘンデル・ゴールド外山滋比古の「ちょっとした勉強のコツ」を読む。
外山のエッセイには、小林秀雄の「考えるヒント」に似た味わいがある。小さな事柄に着目して、だんだんと大きな考えをめぐらせていく。
本書のなかで面白かったのは「付帯条件」という章。
著者は、自然水で炊いたご飯はうまいと断言する。それを疑問視する料理研究家に自論を披露する。
「化学分析すればうまい、まずいがきめられるように考えたら、とんでもない勘違いです。舌の感じる味覚はそれほど完全なものではないのです。ほかの感覚に助けられて、うまいと思い、まずいと感じるのでしょう。うまいと思うのには、まず見た目がよくないといけない。高級なよいものだという知識、知覚に助けられる必要もあります」。
学生時代に、利きビールや利きタバコをやったことがある。目隠しして、銘柄をあてる遊びだ。
これが案外と当たらない。ビールはわからない。日本の銘柄はそう多くはないにも関わらず、実際に目隠しして飲んでみると、どれも同じように感じるのだ。タバコに至っては銘柄が多いのでひとつでもあてることは至難の業だ。
味覚というものがいかに見た目に助けているかを思い知らされたものだ。
そのときに、クラシック音楽演奏の目隠しもやったが、こちらはビールやタバコに比べれば、わかりやすかった。
耳は正確なのだ。
ヘンデル・ゴールド。
ヘンデルのオペラとオラトリオからのアリアを集めた2枚組。独唱曲は25人の歌手による25曲、3曲の合唱曲、計28曲からなる。
ジャケットを飾るのは、バルトリ、フレミング、コジェナー、ショル、ターフェル、ヴィラゾンの6人。
そうそうたるメンバーのなかから、この6人は今が旬の歌手ということかもしれない。
25人の中から、特に気に入ったのは、バルトリ、オッター、オバーリン、ショル、マクネアーの5人。
バルトリのしっとりと肉感的な声はヘンデルにしては重厚であるが、なんとも荘重でもある。
深い知性を感じるオッターの声は座りがよく、深い知性を感じないわけにいかない。
オバーリンはこのCDのなかでひときわ光っている。心の深いところにくいこんできて感動的。この歌手、名前も歌も初めて聴いたが、すばらしい。1959年の録音だから、今ほどカウンターテナーの活躍の場がなかった時代と思うが、この歌手はいい。
カウンターテナーではショルも素晴らしい。天から舞い降りたような声に聴き惚れる。
それからマクネアー。澄んでいて適度に官能的な声がいい。この曲は十数種類の演奏を聴いたけれど、これはトップクラス。マリナーのオケも丁寧。
・『サムソン』より「輝かしいセラフィムに」
キリ・テ・カナワ(ソプラノ)
・『リナルド』より「涙の流れるままに」
チェチーリア・バルトリ(メゾ・ソプラノ)
・『セルセ(クセルクセス)』より「なつかしい木かげ」
プラシド・ドミンゴ(テノール)
・『アルチーナ』より「前のように私を見つめて」
ジョーン・サザーランド(ソプラノ)
・『アリオダンテ』より「暗く不吉な夜がすぎると」
アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(メゾ・ソプラノ)
・『アタランタ』より「親愛なる森よ」
ルチアーノ・パヴァロッティ(テノール)
・『ジュリアス・シーザー』より「2つの瞳よ、御身が慕わしい」
ルネ・フレミング(ソプラノ)
・『タメルラーノ』より「悔しさ覚え」
ローランド・ヴィラゾン(テノール)
・『フロリダンテ』より「でもこれ以上、私に何を望むのです」
ジョイス・ディドナート(コントラルト)
・『ムツィオ・シェーヴォラ』より「ああ、なんと甘い名前!」
ラッセル・オバーリン(カウンター・テナー)
・『イェフタ』より「わが娘を高みに上げてくれ、天使たちよ」
ナイジェル・ロブソン(テノール)
・『メサイア』より「彼は侮られて人に捨てられ」
キャスリーン・フェリアー(コントラルト)他
・ジョージⅡ世の戴冠式のための4つのアンセムより「司祭ザドク」
ウェストミンスター大聖堂聖歌隊 指揮:トレヴァー・ピノック
・『セメレ』より「そなたの赴くところ、何処にも」
ブリン・ターフェル(バス・バリトン)
・『ヘラクレス』より「どこに逃げたらよいものかしら」
ジャネット・ベイカー(メゾ・ソプラノ)
・『ヨシュア』より「ああ、ユバルの竪琴があれば」
マグダレナ・コジェナー(メゾ・ソプラノ)
・『マカベウスのユダ』より「見よ、いま勇者は帰る」
アカデミー室内管弦楽団&合唱団 指揮:ネヴィル・マリナー
・『マカベウスのユダ』より「天なる父よ」
グレース・バンブリー(メゾ・ソプラノ)
・『ソロモン』より「全能の力」
アンドレアス・ショル(カウンター・テナー)
・『セメレ』より「じっと見つめていると」
ダニエル・ドゥ・ニース(ソプラノ)
・『メサイア』より「暗きを歩める民は」
ジョン・トムリンソン(バス)
・『ジュリアス・シーザー』より「つらい運命に涙はあふれ」
テレサ・ベルガンサ(メゾ・ソプラノ)
・『アルチーナ』より「緑の牧場」
フリッツ・ヴンダーリヒ(テノール)
・『セメレ』より「さあ、アイリスよ、行きましょう」
マリリン・ホーン(メゾ・ソプラノ)
・『テオドーラ』より「エンジェルス・エヴァー・ブライト・アンド・フェア」
スーザン・グリットン(ソプラノ)
・『メサイア』より「私は知る、私を贖う者は生きておられると」
シルヴィア・マクネアー(ソプラノ)
・『メサイア』より「ラッパが響いて」
トーマス・クヴァストホフ(バス・バリトン)
・『メサイア』より「ハレルヤ」
イングリッシュ・コンサート&合唱団 指揮:トレヴァー・ピノック
1959年~2008年の録音。
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