ヘンデル「メサイア」 パロット指揮タヴァナー・コンソート、他「メサイア」の数あるCDの中で、このパロット盤をベストとするヒトは少なくないようなので、大いに期待して聴いた。
この演奏の特徴は、全てのパートの音が均等に聴こえることだ。独唱、合唱、オケ、チェンバロが、みな同じ大きさで耳に届いてくる。録音の加減もおおいにあるのだろうが、指揮者がこうしたことに対してかなり気を使ったことは想像に難くない。各楽器があたかも眼前にあるようなリアルな響きを味わうことができる。なんともバランスがいい。
序曲のあと、テノールによって立て続けに歌われるアリアは、自然な高揚の中に落ち着いた佇まいを感じさせる。
ことに2曲目「わが民を慰めよ」で披露される装飾音のトリルが面白い。
5曲目「万軍のこういわれた」で登場するバスは、綱渡りをしているような緊張感がある。もう少しずれると落ちそうな。少々危なっかしいが、声そのものは立派。
モダン楽器の演奏では通常アルトで歌われる「その来る日には誰が耐え得よう」ではカウンター・テナーが登場。
リコーダーのような素朴な直截さでもって、気合の入った歌いぶりはずっしりと存在感がある。
アルトは全体的に、これといったオシの強さがない。華やかさに欠けるものの、あたかもひとつの楽器のように全体に溶け込んでいる。こういったやり方もアリだと思う。なんでもかんでも自己主張することはない。
この演奏では、ソプラノをふたりが分け合って歌う。レチタティーヴォか、それに近いところをエヴェラが、アリアをカークビーが受け持っている。ソプラノの最大の見せ場は「シオンの娘よ、大いに喜べ」で、慎ましくて可憐である。なんとも軽やかな浮遊感。触れたら折れてしまいそうな繊細な歌である。まさに歌による雅な古楽器。
古楽器を使ったオケと同様に、人数を絞り込んだと思われる合唱団は、まるで冬の朝のようなキリリとしまった透明感があって秀逸。ときには力強いキレも感じさせる。「我々に御子が生まれた」は文字通りワンダフルだ(前にも使ったカナ)。
「あなたは彼を黄泉に捨ておかず」は、モダン楽器で演奏しているリヒターやショルティ盤ではテノールによって歌われるが、この演奏では第2ソプラノによる。力強さのかわりに楚々とした味があって、これも一興。
全体的にこの演奏、前半のバスの一部を除いてとてもバランスがいい。渾身をこめた丁寧さ。
一見冷静であるが、曲にたいする熱いものを感じないではいられない。
アンドリュー・パロット指揮タヴァナー・コンソート、合唱団
ソプラノ1:エマ・カークビー
ソプラノ2:エミリー・ヴァン・エヴェラ
アルト:マーガレット・ケイブル
カウンターテナー:ジェイムス・ボウマン
テナー:ジョゼフ・コーンウェル
バス:デーヴィット・トーマス
1988年6月、ロンドンでの録音。
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