ブラームス ヴァイオリン・ソナタ全集 若林暢(Vn) カスリン・スタラック(Pf)
若林のヴァイオリンの音色は多彩だ。強い音は松脂が飛び散るような激しさで弓が弦の上を疾走しているかのようであり、弱音は夜に舞い落ちる牡丹雪のようにそうっと、でも確かな響きを醸し出す。
ひとつとして同じ音はないかのように、全ての音が局面によって異なる光を放っている。
どこがどうすごいというのは難しいけれど、どの音域においても、木の濃厚な芳香でむせかえる。
2番のソナタは、ブラームス特有の、うちにこもった傷つきやすくて脆い心がさりげなく自然に発露した名作であるが、若林はこれを実に丁寧に歌い上げる。色鮮やかであるけれど、いろいろな表情が折り重ねられていて、複雑な、一本縄ではいかない音楽になっている。
若林のことは、先日に行ったコンサートに出演していて、初めて知ったのだ。それで気に入り、後日、たまたま中古屋でこれを見つけて購入した。いまは廃盤になっている。このヴァイオリニスト、録音が少ないのであまり名は知られていないが、もっと知られても良いソリストのひとりだと思う。PR