チー・ユンのヴァイオリンでフランクのヴァイオリン・ソナタを聴く。
曲のなかには、どんな演奏であってもそれなりに聴けるものがある。
私にとってそれは、「マタイ受難曲」と、このソナタである。
マタイの場合は、モダン楽器を使ったものや古楽器を用いたもの、あるいはモダン楽器でピリオド奏法であるもの。そして合唱団の規模も大きいものから小さいものまでさまざまある。でも、どれを聴いてもそれなりに感服してしまうのだ。その理由として、曲そのものが良すぎることに加え、演奏者の心意気も高いからだと、うすらぼんやり考えている。
フランクの場合は、マタイよりももっと制約がある。なにしろ2台の楽器しかないのだから。演奏によって、あまり大きな差異はない。さほど多くの演奏を聴いたわけじゃないけれども、どれを聴いても、やはりそれなりの感銘を受ける。曲そのものが高度に完成され尽くしているからなのだとニラんでいる。
こう書いてしまうと、チー・ユンの演奏も十把一絡げのようになってしまうが、いやいやじゅうぶんにいい演奏である。
ことに中高音の音色が綺麗。スッと伸びていく音が消えゆくときの後味がいい。
ポルタメントが控え気味なのは現代風。ただ、カノンでは少し披露していて効果的。
全体を通して切り込みが鋭く、シリアス。テンポは、もうこれしかないという確信に満ちた中庸。
江口のピアノは万全。3楽章の淡雪のような響きに酔いしれた。
録音もいい。空間が広い。マイクがやや遠めなのかもしれない。まるでコンサート・ホールで聴いているような気分だ。
1994年10月、秩父市ミューズ・パーク、音楽堂での録音。
真夏のスワン河。
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