ツィメルマン(ピアノ、指揮)ポーランド祝祭管/ショパン「ピアノ協奏曲」クラシック音楽を聴き始めてLPレコードを集めだした頃に、指標となったのは吉田秀和の「LP300選」であった。これにはグレゴリオ聖歌から現代までの時代が網羅されているため、西洋音楽史を理解できるとともに、どんな作品を聴いていったら良いのかが素人でもわかりやすく記述されていて、ずいぶん長い間お世話になった本である。著者の、時には生真面目な、ときにはユーモラスな語り口が読んでいて飽きさせない。
膨大な作品群の中から300曲を選ぶにあたっては、たとえ知識があろうとも大変な作業だと推察できるが、この本では著者の好みが明らかにされていて、隠そうとしないところが面白い。
それはページ数に如実にあらわれている。
新潮文庫の場合、本編は275ページから成っている。そのうち、大バッハは10ページ。たったこれだけ? と思ってしまうが、なにしろこの本はバッハに辿りつくまでに115ページを要しているのである。
モーツァルトは7ページ。ベートーヴェンが14ページ。この3人がもう圧倒的に多くて、あとは皆数ページで片付けられてしまう。
ロマン派以降はシューベルトが3ページ半、メンデルスゾーンが1ページ半、ショパンが1ページ半、シューマンが3ページ、という具合。
ページ数に加えて、著者のコメントにも嗜好が出ている。ショパンについては、「世界中のピアニストは、ショパンがなければ商売がなりたたないし、ピアニストはまだ当分なくなりそうもないから、この状態は、当分つづくかもしれない」と強烈な皮肉をかましている。そして今、私が聴いているピアノ協奏曲については、「協奏曲にしても、どうせ通俗的な名曲とわりきってしまえば、サン=サーンスやチャイコフスキーにくらべて、どんなによいかわかりはしない」と、なにもかもバッサリ切り捨てている。
この本を読み始めた当初は、こうした文章が刺激的で、そしてなんだかちょっと通になったような気がして強く影響を受けたものである。もちろん、今読み返しても面白いけれども、もっと柔軟に読めるようになったかなと思う。
★勝手にショパンの日
その通俗的な名曲を、ツィメルマンが弾き振りをした演奏で聴く。
冒頭から、異様に遅く、しかもこってりとポルタメントをかけていて、おどろおどろしい。一聴して普通ではない世界が広がってゆく。なるほど、ツィメルマンが自分で指揮をするのはうなずける。こんなやり方をする指揮者はいないだろうから。
やがて、重厚な響きでピアノが登場する。こちらも思い入れたっぷりな鳴り方をしている。ただ濁りのない音は澄み切っているので、さほどテンポの遅さは感じない。
全体を覆う倦怠感は、特に速い楽章で明らかになっていて、いつも聴くことのできる軽やかさやスピード感は皆無であり、なんとも重苦しい音楽だ。ピアノの明快な響きが救いとなっている。もっとも、こうしたやりすぎの演奏は嫌いではない。
ショパンのピアノ協奏曲の2曲が2枚組みなのはCDでは異例なのではなかろうか。地球に厳しい企画である!?★音楽blogランキング!★にほんブログ村 クラシックブログ無料メルマガ『究極の娯楽 -古典音楽の毒と薬-』 読者登録フォーム
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