シューマン「詩人の恋」 ヘルマン・プライ(Br) レナード・ホカンソン(Pf)
これはスカパーからの映像。もしかしたら、上記のCDとは違う音源かも知れない。
この映像、どこかの家の一室で録画されたもので、それほど大きくない部屋のなかに、ピアノがドンと置いてあり、オッサン二人がそれを囲んで演奏している。
ピアノはグランドであるが、コンサート用のものに比べてひとまわり小さいみたい。そして、音も地味で、現代のピアノとフォルテピアノを足して2で割ったような、端正で渋い響きを聴かせる。
それにしてもこのハイネの詩はすごい。映像だから、歌詞がリアルに表示されていて、その内容の剛球ストレートな感情表現には打たれるものがある。
われわれ普段の会話からかけ離れた話題と言いまわし。
穴があったら入りたくなるほどのこっぱずかしさ。
ハイネの詩には諧謔の色が濃いといわれるが、全体的にはシューマンの率直さが耳にずしりとくる。
とてもシラフでは対抗できない。どちらかといえば、夜向けの音楽である。
そんな歌詞に対し、堂々と向かい合う60過ぎの歌手。
素晴らしい。
生まれ変わるなんてことは思いたくもないが、運悪くそうなってしまったら、私はこういうヒトになりたい。
プライの美声は、老いてもなお健在であり、シューマンの色濃いロマンを歌い上げてやまない。
音程はしっかりしているし、深い呼吸がすばらしい。
基本的には、あまりテンポを変えることなく淡々と歌うが、「恨みはしない」の場面だけはとても激しい。思いがけない休符の長さは、すばらしく劇的な効果を出しており、胸が痛くなるほどだ。
それがあざとくないのは曲に対するプライの真摯な態度が冒頭からにじみ出ているからだろう。
音楽に対する共感に、この歌手がいかに深く食い込んでいることがわかる。PR