シェーンベルク:室内楽作品集西村賢太の「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」を読む。
これは「苦役列車」の後日談。後日といっても、20年ほど後のこと。
日雇いの港湾荷役をしていた主人公(作者)は、作家として生計を立てるようになる。
そこそこ実力はあるものの、まだ若手。じゅうぶんな収入があるとは言えないものの、なんとか生活はしていける。
そんなとき、自分の書いた小説が、川端康成賞の候補に挙がる。これを取れば、名をあげることができる。縁起担ぎに、古本屋でみつけた川端の作品を次々と求める。賞を欲しくて欲しくて、たまらない。
このあたりのいきさつは、どこかできいたことがある。そう、太宰治である。芥川賞が欲しいあまりに、佐藤春夫や川端康成らに懇願の手紙を書いたエピソードである。
そのあたり、作者はもちろん知っての上で書いているのだろう。それは使いまわしのネタではなく、普遍的なものであろうことは想像できる。
彼は後に芥川賞を受賞している。年収は、前に比べて10倍になったという。
富裕層になった彼が、今後どのような小説を書くのか(これは解説の石原慎太郎も言っているが)、興味深いのである。
アサートンの指揮でシェーンベルク「木管五重奏曲」を聴く。
この曲は十二音音楽であるが、4楽章の形式をとっていて、それぞれソナタ形式、スケルツォとトリオ、三部形式、ロンドという、伝統的な構成になっていて、いわゆる「室内交響曲」として位置づけられるという。
編成は、フルート、オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴットとなっている。であるからなのか、十二音音楽としてはかなり聴きやすい。ときおり、ベルクのヴァイオリン協奏曲の旋律が聴こえたりして、メロディーがクッキリと聴こえるところもある。
ことに2楽章が面白い。多彩であって、スリリング。ロンドン・シンフォニエッタの奏者のうまさも水際立っている。
この2枚組のCDには、この曲と先週の「浄夜」に加え、室内交響曲1番、室内オーケストラのための3つの小品、鉄の旅団、クリスマスの音楽、ヴァイオリンとピアノのための幻想曲、そして組曲が収録されている。どれもとても面白い。私のシェーンベルク像を変えてくれた。
1973年10-12月、オール・セインツ教会での録音。
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