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グリーグ 抒情小曲集 ショコライ(Pf)リヒテルの来日公演。それは、結果的に最後の来日になった年のことだった。
東京文化会館での公演プログラムは事前に発表されておらず、「演奏者の都合により当日に発表」というものだった。バッハやシューベルト、ベートーヴェンといったラインアップを期待するところで、なにか腹応えのある演目をバシッと決めてくれるだろうと思っていたものだ。
なにが出るか楽しみ半分怖さ半分で、当日にいそいそと上野公演に足を運んだ。
切符と引き換えに、A4の紙切れを受け取る。そこには、当日の演目が記されていた。
グリーグ、抒情小曲集。以上。
…。
リヒテルがまさかグリーグとは。
しかもこの曲、当時はほとんど知らないのだった。
この動揺は、周囲のざわめきから、自分だけのものではないことがわかった。こう言ってはなんだけど、被害者同士のひそかな共感を感じないわけにはいかなかった。
実際にリヒテルが舞台に現れても、なんともいえない違和感はぬぐえなかったが、ピアノは素晴らしいものだった。重量感のある中低音から透き通った高音に至るまで絶妙に溶け合った響きは、レコード録音からは想像できないほど豊かで繊細なものだった。
知らない曲であっても、そこそこ楽しめる内容であり、ことにピアニストの力量は、それがグリーグであっても、じゅうぶんに思い知らされた。
そして、アンコール。
おもむろにショパンの前奏曲が始まると、会場全体が安堵のため息に覆われたことは言うまでもない。
このショパン、さまざまな意味で一生ものであった。
この公演のあとにいそいそと買った、これはショコライCD。リヒテルの演奏によるものをずいぶんまえに店頭で見かけたが、今はオークションで高額で取引されているみたい。
「勝手にグリーグの日」
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