ポリーニのベートーヴェン「ピアノ・ソナタ17,21,25,26」先週末から、島尾敏雄の「死の棘」を読み続けている。
普段本を読むときには、通勤用と寝る前用とにわけるようにしている。通勤用は比較的くだけた内容のもの、寝る前用はやや重いものというふうに。
で、これは寝る前に読んでいるのだが、さんざん酔っ払ったときなどは床についたらすぐ寝入ってしまうので、なかなか進まない。「老人と海」は途中浮気したりして結局数ヶ月かかってしまったので、これもすぐには終わりそうもない。まだ途中まで読んだ段階だけど、これは相当恐い小説。話の内容を一口に言ってしまえば、主人公の浮気が奥さんにばれて、その後のお互いのせめぎ合いを描く、という話なのだが、人間の情念の襞を実生活の細かい出来事から掬い上げていて、異様なリアリティを感じる。おばけの恐さではなく、人間の恐さですね。もっとはっきり言えば女の恐さ。普段は笑顔を見せているけど、いざとなったらみんなああなるのかなあという恐怖をヒシヒシと。ビビッて眠れないので呑まずにはいられない(結局そうなる)。
さて、このブログでは、気長にベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲記事投稿を慣行しているが、まだ半分もいっていないようだ。
もっとも聴くほうは楽なもので、そもそも楽しんで聴いているわけだから時間があればいくらでもきなさいという感じなのだけど、演奏するとなったらたまったものじゃないだろうな。もちろん、別の楽しさがあるのだろうけど。
25番ト長調はソナタというよりもソナチネの規模で、このポリーニの演奏だと9分程度。こういう曲こそ、名人の手にかかると映えるもの。ポリーニは決してベートーヴェンの専門家というわけではなくて、どちらかといえば近代から現代の音楽に対して名人芸を発揮する人だと思うけれど、この演奏ではスピード感のあるテンポ設定とひんやりとした手触りのする明るい音色を聴かせる。小品をことさら大きく見せるのではなくて、小さいながらもピリリと辛みのきいた風味が楽しい。ほろ酔い気分で聴いているとホントにあっという間に終わってしまう。なんとも、惜しいもの。
音楽って切ないものだなあとしみじみ感じる夜でありました。PR
無題 - bitoku
Re:bitokuさん、こんばんは。 - 管理人:芳野達司
私も、この記事を書く間に3回聴けました。この曲、いつのまにか、なにげなく終わってしまうのですね。まるで、さっきまで一緒に呑んでいたヒトがいつのまにかいなくなってしまうような、そんな軽やかさと切なさを感じます。
そうそう、なんとか今年中にはベートーヴェンの記事を完結させたいなあと思っておりマス。bitokuさんのショパンも待ってます!
>ちなみに私も寝る前に読んでいた本が4,5冊途中まで読んでほったらかし状態で寝床に転がっています。(笑)
私もそうなんですよ。難しくて途中で投げ出したものも未練がましく枕元においてあったりします。そういうことがありながら懲りずに次から次へと買ってしまうのですが…。
2007.02.28 22:11
無題 - Niklaus Vogel
Re:Niklaus Vogelさん、こんばんは。 - 管理人:芳野達司
軽みといえば、この25番はベートーヴェンのソナタ中でも最も軽いものになるかもしれません。中期から後期にかけて、重厚で長い曲が目立つベートーヴェンですが、時折目にすることのできる軽やかな小品は見逃せません。重厚長大な音楽をぐぐっと凝縮させたような密度の濃さを感じます。そんな柔軟な作品を書いたベートーヴェンはやはり並でないと改めて感じます。軽さって大きな価値ですね。
2007.04.14 21:34
この記事へのトラックバック
TrackBackURL
→