マゼール指揮ベルリン・ドイツ・オペラ他の演奏で、ビゼーの「カルメン」を再び聴きました(1970年、ベルリンでの録音)。
前奏曲からキレのある響きに引き込まれます。後年に録音したフランス国立管弦楽団とのものより、マゼールのケレン味がはっきり出ているように感じます。
それをもっとも感じるのは、始まってじきに登場する少年合唱。「タッタッタタララー、タララッタララッタッター」と、なんとワンパクで元気なことでしょう。リズムを思い切って強調させて、いままさに悪戯にとりかかるようなやんちゃぶり。アンサンブルの緩さが、元気の良さに拍車をかけているみたい。
それから1幕の最後のほうで歌われるカルメンとホセとのワルツ。テンポの変化は自在なのに、流れはごく自然。それについてゆく歌手は大変なのだろうと想像するが(もしくは歌手主導もありうるが…ここは指揮者ペースなのではないかと憶測)、うまい具合にぴったりと合っている。ワルツのリズムが伸びたり縮んだりずり上げたり、やりたい放題に聴こえるけど、呼吸に無理がないから違和感がない。
歌手では、まずドナートのミカエラ。夢のような歌声に、酔いしれました。軽やかで情感たっぷりでもあり、ミカエラという女の薄幸さを浮き立たせていて、思わず同情しないわけにいきません。
それからモッフォのカルメン。フランス語特有の鼻にかかる声が色気たっぷり。ただ、歌声そのものは可憐なので下品にならない。
カプッチッリのエスカミーリョ。これ以上、立派に歌うことが可能なのでしょうか。圧倒的な声量と輝かしさ。彼が登場すると、空気が一変し、周囲の人物がサアッと道を譲るように感じる。まるで「十戒」のよう。
ドン・ホセを歌うコレッリもよい。張りがあって、表情が細やか、そして優柔不断な性格をうまく醸し出しています。
モッフォもドナートも魅力的すぎて、どちらを選ぶかといわれれば男としてはおおいに困るところです。これはドン・ホセではなくても迷ましい。
ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団は、ことに男声の剛直な歌声に魅力がありますが、ここでもすきっ腹に響き渡るような強烈な歌声を聴かせてくれます。
歌手は色とりどりに、個性をおしみなく歌いきっているのに全体のまとまりがよいのは、マゼールの引き締まったリードにあるように思います。
カルメン:アンナ・モッフォ
ドン・ホセ:フランコ・コレッリ
エスカミーリョ:ピエロ・カプッチッリ
ミカエラ:ヘレン・ドナート
スニガ:ジョゼ・ヴァン・ダム
モラレス:バリー・マクダニエル
フラスキータ:アーリーン・オジェー
メルセデス:ジャーヌ・ベルビエ
ダンカイロ:ジャン=クリストフ・ベノワ
レメンダート:カール=エルンスト・メルカー
シェーネベルク少年合唱団
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