川上弘美の「蛇を踏む」を読む。
これは、蛇を踏んでしまった女性に、蛇が女の形となってとりつく話。
仕事を終えて家に帰ると、女が食事を用意して待っている。
ほうれんそうのごまよごし。昆布と細切り人参のあえもの。さわらの西京漬け。えびいも。白胡麻のかかるしらす飯。
飯を食っている間、わけのわからぬいちゃもんをつけられるが、こんな食事を作ってくれる蛇なら悪くない、と女はかすかに思っている。
ストーリーに意味はないが、なんだかほんわかとさせられる。暖かい話だ。
ダヴァロスの指揮でスメタナの「わが祖国」を聴く。
彼は1937年生まれたイタリアの指揮者。家系は「ナポリ史を彩ったたいへん由緒のある名家」と言われているらしい。フランコ・フェラーラやチェリビダッケに師事していたが、主に作曲活動に専念していたため、指揮者としての知名度は低かった。しかし80年代半ば頃よりレコーディングに力を入れ始め、にわかに注目されるようになったとのこと。私はこの指揮者を初めて聴いた。
結論を先に述べると、この演奏は大変素晴らしい。「わが祖国」といえば、ライヴではクーベリック/チェコ・フィル(東京公演)、セッションではクーベリック/ボストン響が双璧と思っていたが、後者にひけをとらない出来である。
なにしろ丁寧だ。どの音もないがしろにしていない。じっくりと熟成された芳醇なブランデーのような香り。
冒頭のハープは夢のように美しい。弦楽器はしっとりと繊細にうねる。ピッコロは高らかに飛翔する。ファゴット、オーボエのキレのいいこと。トランペット、ホルン、トロンボーンは柔らかく深い。
どの章もまんべんなくレヴェルが高い。この曲はやっぱり全曲を通して聴くべきだ。あらためて思う。
フランチェスコ・ダヴァロス(指揮)
フィルハーモニア管弦楽団
1992年8月、ミーチャム、聖バーナバス教会での録音。
スメタナの本屋。
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