養老孟司の「養老訓」を読む。
これは、不機嫌なじじいにならないための指南書。適度に緩くて、ときに鋭い養老節が冴える良書である。
印象に残ったのは、今話題の憲法問題についての記述。
「『憲法にああ書いてあるのに、自衛隊を海外に出していいのか』ということが常に議論になる。それは本当に悪いことでしょうか。こんな議論が起こるのは憲法第九条があるおかげです。これが簡単に合憲だとされてしまったら、今よりも考慮が浅くなる。私は『だから現実を憲法に合わせろ』と言っているのではありません。自衛隊だって海外に出さざるを得ないときには出せばいい。でもそのときにも『やむを得ないで出しているのだ』という言い分を通すために、より強い論理が必要になる」。
柔らかアタマのすすめ。老人になってこそ体力は必要で、頭の体力もつけることが肝要なのである。
パーヴォ・ベルグルンド指揮ドレスデン・シュターツカペレの演奏で、スメタナの「わが祖国」を聴く。
この曲の演奏を最近、機会があれば聴いている。クーベリック指揮(ウイーン・フィル/ボストン交響楽団/バイエルン放送交響楽団/チェコ・フィル)、レヴァイン指揮ウイーン・フィル、ダヴァロス指揮フィルハーモニア管弦楽団、ドラティ指揮コンセルトヘボウ管弦楽団。アンチェルやノイマン、マタチッチらをいまだに聴いていないのはいかがなものかと思うが、まあこれからの愉しみとしておく。
ベルグルンドのこの演奏、ことに後半で音をスタッカート気味に短く刈りそろえている箇所が多く、切れ味がいい。テンポは中庸で、とてもテキパキとしている。
まず、冒頭にやられた。「高い城」のハープがいい。良すぎる。特に低音はえもいわれぬ美しさで、あたかも目の前で弾いているみたいに鮮明。この部分、これまで聴いた中でもっとも感銘を受けた。「高い城」はこれに尽きる。
「モルダウ」もハープが効いている。フルートがひゅるひゅると流れるなかに、キラリと光る。
「シャールカ」は冒頭のクラリネットがまずいい。とても味の濃い音色で、存在感がある。後半部の忙しいところは、ホルン、トランペットのキザミが鮮烈で激しい。
「ボヘミアの森と草原から」は中間部で、ティンパニと弦が溶け合うところがいい。これはドレスデンの状態のいいときのティンパニの音だ。
恒例通り演奏は「ターボル」からじわじわと熱を帯びてくる。コクのある弦の上を、軽やかにピッコロが飛翔する。
「ブラニーク」の中間部、クラリネットとオーボエ、フルート、ホルンが掛け合うところがまず見事。ホルンは微妙にヴィブラートをかけていて甘め。「汝ら神の戦士」でのソロは美しいが、意外とスマート。全奏も毅然としている。フィナーレはわりと軽やかに、淡々と締めくくられる。鮮明に光るピッコロはとても効果的。
1978年3月、ドレスデン、ルカ教会での録音。
本屋。
重版できました。
「ぶらあぼ」4月号に掲載されました!PR