アルフレード・クラウスのタイトル・ロールによる、マスネ「ウェルテル」を聴きました(1979年8,9月の録音)。
来週の新国公演の予習。
台本は、ゲーテの原作といくつか違うところがあるようです。オペラのほうがいくぶん劇的、意地悪に云えば大げさに仕上がっている。まあ、慣例通りといえましょう。
ここでのクラウスの歌いぶりは、歴史的名唱の誉れ高いもの。実際に聴いて、その世評は間違っていないと感じました。
たっぷりと張りのある声は若々しく情熱に溢れています。鼻から息が抜けるところのフランス語のニュアンスからは、仄かな色香が立ちのぼっている。青春時代特有の陰鬱さを控えめに醸し出すことで、やがて訪れる悲劇のトーンを彩ってもいる。
シャルロッテ役のトロヤノスもいい。メゾ特有の深みある質量感を保ちながら、春の樹花の蕾のようなみずみずしさも湛えている。
ゾフィーのバルボーは、なんとも可憐。15歳の設定ですが、さして違和感はない。アルベール役のマヌグエルラ、法務官役のバスタンもいい。
ロンドン・フィルは、持ち味の重厚な音色を惜しみなく聴かせてくれます。
色調は曇り空。それがこのお話に合っているような気がします。
アルフレード・クラウス(T)
タチアナ・トロヤノス(Ms)
クリスティーヌ・バルボー(S)
マッテオ・マヌグエルラ(Br)
ジュール・バスタン(Bs) 他
ミシェル・プラッソン指揮
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
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