伊熊よし子の「グリーグを愛す」を読む。
本書は、著者がグリーグの生活したベルゲンに赴いてのエッセイと、作曲家の生涯、そして作品紹介の3章に分かれている。
文章からはフィヨルドや街なみの美しさがにじみ出ており、寒いのだろうけど、思わず行きたくならずにはいられなくなる。
ところどころに挿入された写真もいい。グリーグが作曲をした家は、こんなに小さな木造だったのか。彼はこんな白夜の世界に生きていたのか。
ベルゲンは北欧でも有数の漁港でもある。グリーグは言う。
「波止場ならではの匂い、港にあがったタラの匂いは私を活気づけ、胸がわくわくするほどです。そのすべてが私の音楽を形成しています。タラの匂いが音楽に込められているといっても過言ではありません」。
これからは、タラチリを頂くときに、グリーグに思いを馳せるだろう。
付録にCDがついており、なかでもシュトゥットが指揮する「ホルベアの時代より」は素晴らしい。
全体を通してこれは、著者のグリーグに対する愛情がストレートに溢れた素敵な本だ。
ムストネンのピアノで、グリーグのピアノ協奏曲を聴く。
彼は1967年にフィンランドで生まれたピアニスト。名前は聞いていたが、演奏を聴くのは初めて。
要所要所にスタッカートを取り入れて、歯切れのいい音楽を作る。ことに高音は澄み切っていて、上のくだりではないが、北欧のひんやりとした空気を連想させる。
テクニックに不安はまったくなく、すみずみまで目の行き届いた丁寧な演奏を繰り広げる。
1楽章のカデンツァでは弱音の厚い響きを巧妙に操って、なかなか深く内省的で、心に沁みるものがある。
2楽章は冬。家のなかに籠って、しんなりと佇む感じ。
終楽章は、ムストネンのリズム感がはちきれんばかりに生き生きしている。元気はいいが、やりすぎない冷静な目もある。計算された抑制。
ブロムシュテットの指揮もいい。
1楽章の3分17秒あたりでピアノにファゴットが重なるところ、そして8分18秒あたりからのホルンの音色には、感涙しそうになった。
オリ・ムストネン(ピアノ)
ヘルベルト・ブロムシュテット指揮
サン・フランシスコ交響楽団
1994年5月、サン・フランシスコ、デイヴィス・シンフォニー・ホールでの録音。
魚市場。
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