英国ロイヤル・オペラのグノー「ファウスト」公演に足を運びました(2019年9月15日、東京文化会館にて)。
今までこのオペラについては、春の沈丁花のように甘くて濃厚な匂いが鼻腔をくすぐってやまない、との印象を持っていました。この公演ではどんな芳香が施されるのか、とても興味深かった。DVDと実演とでは、当然ながら違うわけなので。
果たして、よかった。三日月のようにリリカルでありつつ、結末に至るまでのずっしりとした質量は聴きごたえじゅうぶん。演奏者はおしなべて巧みでした。
ファウストは高度にメリハリのついた歌いぶりが冴えていました。輝かしい高音だけでなく、適度な抑制を効かせていて、塩梅が良かった。
それに絡むメフィストフェレスは精悍な悪魔。筋肉質でぎゅっと締まったバリトンは、終始安定していました。
マルグリートはメゾに近いソプラノ。出だしからしばらくはいささかハスキーであると思いましたが、3幕あたりからこちらの耳がこなれたせいか、ヒンヤリとした知性を感じる素敵な声に感じられました。
演出はクラシックな装置をベースにしつつも、大胆な味付けをときに効かせており、それは特にワルプルギスの場面において顕著だったかと。ファウストの幻覚を強調した、エロさを感じる大人の舞台。
ラストは大天使ミカエルがはっきりと登場、ちょっと鳥肌が立ちました。
指揮のパッパーノもよかった。歌手とのタイミングは絶妙だったし、流れはよく、硬軟織り交ぜた鳴らしっぷりも見事。雰囲気もありました。
ロイヤル・オペラ管弦楽団の実力は、東京フィルや読売日響と同等と言っておきましょう。「そんなわけないだろう?」という向きもあろうが、事実。それはつまり、日本のオケの実力が格段に上がったということに他ならないのだと、解釈しています。
指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:デイヴィッド・マクヴィカー
ファウスト:ヴィットリオ・グリゴーロ
メフィストフェレス:イルデブランド・ダルカンジェロ
マルガリータ:レイチェル・ウィリス=ソレンセン
ヴァランタン:ステファン・デグー
ジーベル:ジュリー・ボーリアン、他
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