英国ロイヤル・オペラによるヴェルディ「オテロ」公演に足を運びました(2019年9月21日、東京文化会館にて)。
今回はまず、パッパーノの指揮について。
彼のディスクをいくつか聴いて、とくに印象に残ったのはヴェルディの「レクイエム」と「ドン・カルロ」。前者はトスカニーニ張りのテンペラメント溢れるもので大変興奮したし、オペラは見通しがよく、かつ恰幅のいい演奏で、過去のいわゆる名盤と比べても引けを取らないものだと思います。
そのふたつの演奏で提示された彼の良さというものが、この「オテロ」には如実にあらわれていました。
歌手とのタイミングがきちんと合っていることは勿論、フォルテッシモにおいても歌を決してかき消さないバランスの良さがあり、管弦楽だけによるところでは強い音をふんだんに放流させ、非常に激烈だった。ロイヤル・オペラ管弦楽団のコクのある音色も際立っていました。
そんな繊細にして雄弁なオーケストラをバックに、歌手たちも好調。
オテロはとても輝かしい。その輝かしさが幕を追うごとにだんだんと悲劇的な色調になってゆく移り変わりの妙があった。艶やかで硬質な声は若いころのドミンゴを彷彿とさせたし、決してひけをとらない歌唱。
デズデモナは「柳の歌」が大きな聴きどころ。夫に裏切られた哀しみをしっとりと歌い上げ、もらい泣きしそうになりました。彼女は派手さはないけれど、陰影の深い声が印象的。前の女性は涙をぬぐっていました。
イヤーゴは凛とした歌いぶりと立ち居ぶるまい、格調高いイヤーゴだった。いやらしさは少し薄かったかな。これはこれで面白かった。歌は終始安定していました。
合唱。こんなに力強く、腹に響くコーラスを聴いたのは、いつ以来だろう。さほど大人数ではないと見受けられたが、とてもパワフルだった。
全体を通して、たいへん聴きごたえのある見事な「オテロ」でした。
指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:キース・ウォーナー
オテロ:グレゴリー・クンデ
デズデモナ:フラチュヒ・バセンツ
イヤーゴ:ジェラルド・フィンリー
カッシオ:フレデリック・アンタウン
ロデリーゴ:グレゴリー・ボンファッティ
エミーリア:カイ・リューテル、他
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