新国立劇場の制作によるワーグナー「さまよえるオランダ人」公演に足を運びました(2022年1月29日、新国立劇場オペラパレスにて)。
これはスッキリとまとまりのいいワーグナー。
演出は10年以上前から引き継がれているものらしく、簡潔にして重厚な舞台はいかにもこなれている感じがしました。また、歌い手を邪魔しないということにおいても、よく工夫されている印象をもちました。
歌手はまずゼンタ。伸びのある高音域は1月の空のように透明で、かつしなやか。滑らかなヴィブラートは、下品になる寸前で抑えられているところが上手いと思いました。男を救済する包容力もたっぷり。
オランダ人も好調。重すぎず軽すぎない歌声は、全編を通じて安定していました。また、ハンサムな容姿でもって繰り広げる演技は主役として堂々たるもので、見ごたえありました。
唯一テノールのエリックは、軽みのなかに夕日のような激情を湛えていて、それが瑞々しいから、感情移入しないではいられませんでした。
そして、ダーラントは手厚く、ゆったり。彼がこの役を歌うのを初めて聴きましたが、いかにも手慣れたふう。安心して身を委ねました。
デスピノーサの指揮を聴くのは、2017年の二期会「蝶々夫人」以来。今回はジェームス・コンロンの代役だけど、しっかりと地に足のついた堅実な音楽を聴かせてくれて満足。
オーケストラは、ときに迫真に満ちた音を奏でていたけれど、全般的に金管のミスが目立ったのが残念。
ダーラント:妻屋秀和
ゼンタ :田崎尚美
エリック :城 宏憲
マリー :山下牧子
舵手 :鈴木准
オランダ人:河野鉄平
合唱指揮 :三澤洋史
合唱 :新国立劇場合唱団
指揮 :ガエタノ・デスピノーサ
管弦楽 :東京交響楽団
演出 :マティアス・フォン・シュテークマン
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