井出よし江さんのピアノ・リサイタルに行きました(2017年7月15日、銀座、王子ホール)。
バッハ:フランス組曲2番
モーツァルト:ロンド イ短調
ベートーヴェン:ソナタ31番
シューマン:幻想小曲集 op.111
ブラームス:幻想曲集 op.116
独墺の本流を時系列に並べた演目は、想像以上の手ごたえがありました。
バッハは流麗。終始なめらかな音を紡いで、広がりのある音楽を作り上げていました。
この蒸し暑い中、一服の清涼感をもらいました。
モーツァルトはもともと幻想的な曲ですが、スタッカートの塩梅が絶妙であり、より濃いファンタジーとして描ききっていて見事。テンポもちょうどよく、歯切れもいい。名演奏だと思います。
ベートーヴェンも、また圧巻。
柔らかなタッチでもって、強弱・テンポの変化を縦横無尽に施して、堅牢にしてロマンティックな世界を構築しました。各楽章はアタッカで続けられ、推進力も強かった。昔に聴いた、グルダの演奏を彷彿とさせられました。
いくつかの箇所で、涙が出そうになりました。
後半のシューマンとブラームスは、明晰でありつつも、コクの深い佇まいのある演奏。そして特筆すべきは、タッチの柔らかいこと!
音が多い場面であっても全く混濁せず、ひとつひとつの音がホロホロとほぐれていて、柔らかい。抑揚のある流れに加えて、このように音色だけでも魅せられる、そんな演奏でした。じつに丁寧な仕上がりであり、全体の造形は格調が高いものでした。
アンコールは、ブラームスの間奏曲op.117とシューマンのトロイメライ。
シューマンで感涙。以前、ホロヴィッツの「モスクワ・コンサート」で、やはりトロイメライで涙する観衆をみたことがあり、こんなことは特別なことだろう、なんて思っていましたが、あるのですね。
心に沁み入るリサイタルでした。
パースのビッグムーン。
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