パールマンを生で初めて聴いたのは中学二年のとき。
東京フィルの定期演奏会でメンデルスゾーンのコンチェルトを弾いた。
K君とふたりでチケットを買った。その直後、家の近所に東京フィルの事務局の人がいて、母が私ががクラシック音楽を好きだということを言ったら、毎月、定期演奏会の招待券をくれるようになった。このパールマンの月から。
それでチケットが二枚余ってしまって、他にクラシックを好きな友達を誘って四人で行ったのだ。会場はそのとき、東京文化会館は改修中だったので、日比谷公会堂。
だから、今夜のパールマンは35年ぶり。
ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ1番
グリーグ ヴァイオリン・ソナタ3番
タルティーニ ヴァイオリン・ソナタ「悪魔のトリル」
いろいろ名曲集
35年前は松葉杖をついて現れたパールマン、今日は電動車椅子で登場。快速で舞台に舞い降りた。
ベートーヴェンの、なんて瑞々しいこと!
春の若芽のような、生命の息吹を感じないわけにはいかない。もともとが明るくて前向きな音楽だから、パールマンにはぴったり。気持ちのいい演奏だった。
グリーグのヴァイオリン・ソナタは、今日の朝に軽く1回聴いただけなので、あまり馴染みのない曲。
ところが、これが本日の白眉だった。なんと言っても2楽章。すばらしくメロディアスな音楽。北欧ならでは、グリーグならではの曲だ。しっとりとしていて、ちょっぴり冷やかな温度。
これをパールマンは、潔く弾く。衒いがない、まっすぐなヴァイオリン。感傷的にならずに、かつ朗々と弾きこなす。最後の高音の、空気を切り裂くようなピリっとした感触は、生演奏の醍醐味。
「悪魔のトリル」では、パールマンが技巧面でもまったく衰えていないことを示してくれた。規則的に、かつ素早く動くトリルの一音一音が明確に聴きとれる。そしてなんといっても、軽やかな音。天空を舞うような、ヴァイオリンである。
パールマンといえば、松脂が飛び散るような中低音の音が今まで印象的だったが、今日のリサイタルでは、高音の軽やかさが特長だと思った。ホールの音響のよさに相俟って、それはアゲハ蝶の飛翔のように自由だった。
名曲集は、チャイコフスキー、ドタイエ、ガーシュインなど。
ドタイエでは、ラスト近くで弓を上下させているにも関わらず、音が途切れないという至芸を聴かせてくれた。
アンコールは、バッティーニの「妖精の踊り」。アンコール・ピースには最適の曲。パールマンの技はここでも軽妙洒脱。テクニックに衰えなし。
ピアノのシルヴァは、音量のバランスといい、粒だった音といい、合わせるタイミングといい、文句のつけようがない。この人は、かなりの腕前だ。ただものじゃない。
パールマンには、芸術家というよりはヴァイオリン弾きという称号がふさわしい。これは、最大の褒め言葉。
イツァーク・パールマン(ヴァイオリン)
ロハン・デ・シルヴァ(ピアノ)
2013年10月6日、東京、サントリー・ホールにて。
木こりの薪割り競争。
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