ダシール・ハメット(小鷹信光訳)の「マルタの鷹」を読む。
主人公はサン・フランシスコの探偵のサム・スペード。これが辛口の人物。人情というものは皆無、金やセックスといった欲望にまみれた探偵。典型的なダーティ・ヒーローである。
かなりの価値のあると言われる「鳥」をめぐって物語は展開される。綺麗な女や太った金持ちなど、さまざまな人物による陰謀が巡り、それによって死ぬ人も少なくない。
ストーリーそのものは、今となっては斬新とはいえないが、スペードの決して行儀のいいとは言えない振る舞いに、魅力を感じる。
リヒターの指揮で、ヴェルディの「レクイエム」を聴く。
リヒターの指揮は、折り目正しい実直なもの。あたかも「マタイ」を振っているかのような峻厳さがある。
この録音はライヴということもあり、オケや歌手の瑕疵も少なくないが、独特の興奮に溢れた演奏だと言える。
「怒りの日」における、ティンパニと大太鼓の迫力は、なかなかのもの。
この曲は、レクイエムと謳われながら、ハンス・リヒターの説を発端に「オペラ的」とされている。実際に、トスカニーニやジュリーニ、カラヤン、ムーティの演奏を聴くとそう思うが、ここではそういった演劇的装飾はできるだけ排除するように考慮されている。
テッパーの歌唱がその典型だ。劇的な情緒を抑えて、淡々と音符を奏でるかのような歌唱。ビョーナーの歌唱は、オペラとの境界ギリギリ。ただ、美しいので許す(?)。クメントはかなり抑えている。宗教的というかバッハ的というような佇まいを、謹厳にあらわそうとしているのを感じる。フリックの歌は立派だ。たぶん、この曲の録音史上特筆されるほどの名唱であろう。ただ、バッハ的かといえばそうではなく、かなりワーグナー・チックではある。
ただ、歌手はみな、後半になると比較的自由に歌おうとしているし、やや息切れしてくる。これがライヴの面白さだろう。
それでも、この演奏の熱気は、失われない。
録音は、放送用のものではなく、ミュンヘン・バッハ合唱団の団員が個人的に収録したものであるらしいが、じゅうぶんに聴くに耐えるものだ。
イングリット・ビョーナー(S)
ヘルタ・テッパー(Ms)
ヴァルデマール・クメント(T)
ゴットリープ・フリック(Bs)
ミュンヘン・フィルハーモニー合唱団
ミュンヘン・バッハ合唱団
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
カール・リヒター(指揮)
録音:1969年2月28日、ミュンヘンドイツ博物館コングレスザールでのライヴ録音。
ユーカリの白い肌。
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