池田清彦の「アホの極み」を読む。
これは、3.11に対して振る舞われた日本政府への、ご意見エッセイ。
著者は脱原発を強く主張している。
ことに、「マグニチュード9.0の地震は想定外」とする政府や東電の見解に強い反発をする。それが通れば、大災害はすべて免責となるからだ。
しかし、著者によれば、マグニチュード9.0以上の地震は、この50年余りで4回も起きているとのこと。予防原則などと言っているのは人間だけ。
「資金と努力には限りがあるから、すべてを予防することはできない。ならば一番危険な所から予防する他はない」。
何億年にも遡る生物の歴史のなかで、マグニチュード9.0を超える天変地異がおきたであろうことは、素人の私でもわかる。
他の生物たちは、起きた災害をありのままに受けている。
「我々は自然の前にもっと謙虚になったほうがいいと思う」。同感である。
レヴァインの指揮で、ワーグナーの管弦楽曲集を聴く。
『タンホイザー』から序曲とバッカナーレ(ヴェーヌスベルクの音楽)
『ニュルンベルクのマイスタージンガー』第1幕への前奏曲
『ローエングリン』第3幕への前奏曲
『さまよえるオランダ人』序曲
『ワルキューレ』からワルキューレの騎行
『トリスタンとイゾルデ』から前奏曲と愛の死
オケは、ヴァイオリンの対抗配置によるもの。曲によって、面白い効果をあげている。全体的に、覇気に満ちた明るいワーグナーだ。
「タンホイザー」はホルンと木管によるテーマがまろやかで美しい。奏者の息遣いまでもが、音楽の一部となって溶け込んでいる。弦楽器の朗々とした歌いぶりもステキだ。
「マイスタージンガー」は、硬軟織り交ぜた名演。なにげないテンポと強弱であるが、さまざまな楽器が見えたり隠れたり、スパイスを効かせたり、細かさ表情がとても豊か。全ての音が活気づいている。
「ローエングリン」は華やか極まりない。銀色に輝かく金管群、クッキリとした目鼻立ちの木管群、そしてとびきり生きのいい弦楽器。
「オランダ人」は切れ味がよくて明快。明るさではショルティ盤よりも上をゆく。左から聴こえる第二ヴァイオリンのキザミがはっきり聴きとれるところなんかは面白い。こんなに陰の少ないワーグナーも珍しい。
「ワルキューレ」は、対抗配置のヴァイオリンが臨場感たっぷり。良くも悪くも、ヴェトナムのヘリコプター軍団を思いおこさずにいられない。終りの方で奥の方からギュルギュル唸る木管群も素晴らしい。
「トリスタン」は、しっとりしなやか。やはり陰は薄い。ただ、美しい。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの音の密度が濃い。この美しさには抗しがたいものがある。
レヴァインのワーグナーは、全曲だと比較的遅めのテンポを設定することが多いようだが、この曲集に関しては快速。朝の通勤に聴くと元気が出る。
メトロポリタンの能力はとても高い。こうした管弦楽だけの企画でも優にこなせる。というか、アメリカの五大オーケストラ(古いか?)にひけをとらない。
ジェイムズ・レヴァイン指揮
メトロポリタン・オーケストラ
1991年5、6月、1995年5月、ニューヨークでの録音。
海辺にて。
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