ニルソンのソプラノ、ヴィントガッセンのテノール、ベーム指揮バイロイト祝祭管弦楽団・他の演奏で、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」を再び聴く(1966年7月、バイロイト祝祭劇場でのライヴ録音)。
これは熱のこもった演奏。歌手とオーケストラが渾然一体となって悲劇を彩っている。
HMVの解説によれば、この録音は当初セッションで行われる予定だったのが、ベームの要望でゲネプロに聴衆を招いての録音になったとのこと。バイロイト特有のボワンとしたものではなく、硬質でシャキッとした音で録られている。それが、全体を引き締めている。
またベームの指揮も筋肉質。いくぶん速めのテンポを設定しており、直線的。ただ大きな流れは、キッチリと計算して采配していると思われる。場面のいくつもあるであろう抑揚を丁寧に、辛抱強く重ねていくことで、劇的効果につなげている。とくに1幕の最後は圧巻で、手に汗を握らずにはいられない。また、2幕におけるイゾルデとトリスタンとの愛の交歓も、ものすごい臨場感で迫ってくる。
また、全体を通して、歌手とのタイミングも合っている。まさに、手練れの指揮。
ソロは、コーラングレを始め、トランペット、クラリネット、ホルン、オーボエ、チェロなど、とてもうまい。
ニルソンのイゾルデはショルティ盤でも素晴らしい歌唱を聴かせたけれど、ここでもいい。高音域が抜群に安定していて、揺るぎがない。可憐さと妖艶さを併せ持っており、なおかつ毅然としたイゾルデを演じきっていて、迷いなし。素晴らしいイゾルデ。
ヴィントガッセンのトリスタンは、後半にいくに従ってよくなっているように感じる。3幕は、先のふたつの幕に比べると、いささか求心力に欠けるところだと思うが、彼の歌で助かっている。情熱的であり、技術も高い。
ヴェヒターのクルヴェナール、ルートヴィヒのブランゲーネは、言うことなし。歌唱の味わい深さ、手厚い存在感、ともに比類ない。
あと特筆したいのは、タルヴェラのマルケ王。ずぶとい声は威圧感満点、そしてこの王は、いささか感傷的になるところがあるけれど、それもこの演奏のなかではスパイスとなっていて、いい味を出していると思う。
ビルギット・ニルソン(S:イゾルデ)
ヴォルフガング・ヴィントガッセン(T:トリスタン)
エーベルハルト・ヴェヒター(Br:クルヴェナール)
クリスタ・ルートヴィヒ(M:ブランゲーネ)
マルッティ・タルヴェラ(B:マルケ王)
クロード・ヒーター(T:メロート)
エルヴィン・ヴォールファールト(T:牧童)
ゲルト・ニーンシュテット(B:舵手)
ペーター・シュライヤー(T:若い水夫)
バイロイト祝祭管弦楽団&合唱団
パースのビッグムーン。
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